第19章 『停滞』 2
この部屋に俺たちの他には大総統が一人。
アルも含めて錬金術師が三人もいるのに……。
「……ゴホン!」
突然アルフォンスのお腹から咳が聞こえて、俺は慌ててそれに言葉をかぶせる。
「だっ、大総統!―――以前俺が入院してた時!見舞いに来てくれましたね。」
隠しきれてはいないだろうと思ったが、言葉を続けた。
「あの時は、まさかそっち側の人間とは思いませんでしたよ。まんまと騙されました。」
「『余計なことに首を突っ込むな』『軍内部全て敵と思え』『時が来たら働いてもらう』…と、言ったはずだよ。君たちは我々にとって貴重な人材だ。余計な事は知らんでいい。」
完全なる上からの圧力。
「ただ、時が来るまでおとなしくしていろ。そうすれば悪いようにはせん。」
「では、その時が来たら、俺達『人柱』と呼ばれる者以外の一般人はどうなるんですか?」
「余計な事は知らんでいいと言ったはずだ、鋼の錬金術師。」
――鋼の錬金術師――
ずっしりと重みのある単語。
「鋼の錬金術師…か。この二つ名をもらった時に、重っ苦しいとは思ったが、まさかこんな嫌な重みになるとはね…。」
軍の狗であることを後悔したのは、今が一番かもしれない。
ポケットに手を伸ばし、ソレをぎゅっと握りしめる。
「この二つ名、捨てさせてもらう。」
ぐ。と突き出した国家錬金術師である証。
「元はと言えば、俺みたいなガキにもさまざまな特権をくれるというから、自ら進んで軍の狗になったんだ。大衆のためにあるはずの錬金術を、軍のために使う屈辱……。」
淀むことなく、敵を見据えて言い放つ。
「それもこれも、もとの身体に戻る方法を探すためと割り切った。だが!この国家錬金術師制度自体が、おそらく人柱とやらの選出の一環…。」
かちゃり。と大総統がティーカップを手にする音が聞こえる。
余裕綽々ってぇ顔だな。
「さらにはあんたらがやろうとしている、想像もつかねぇ凶々しいことに加担させられるというなら、こんなものはいらない。俺は国家錬金術師を辞める。」