第19章 『停滞』 2
俺たちが勝てる相手じゃなかった。
俺たちの想像をはるかに超えていた。
『ありえないなんてことはありえない』
グリードの言葉が妙に頭の中で冴える。
森の中でグラトニーに喰われて、グラトニーの腹の中、疑似真理の扉の中でのエンヴィーとの戦い。
賢者の石の真実。
自分自身の人体錬成が成功。
お父様との対面。
この国を襲う病は、気がつかないうちに足元を崩していた。
シャワー室で汗と血を流し、サッパリさせる。
アルフォンスは、無言で鎧を磨いている。
『君たちの事は、上に任せる。』
リンがキングブラッドレイ大総統はホムンクルスだったと言っていた。
きっと俺たちは何らかの形で制裁を受けることになるのだろう。
権利剥奪か、いや、本当に殺されるかもしれない。
「エルリックはこちらに?」
「いるけど、なんの用だ?」
「いえ、等価交換をしに。」
何やら声が廊下から聞こえる。
「兄さん。ビーネじゃない?」
「ビーネ!」
ノックもされずに、シャワー室の扉が開かれた。
俺たちの前に現れたビーネは、いつもの柔和そうなビーネじゃなかった。
「やぁ。エルリック兄弟。」
にっこりと張り付けたような笑顔のビーネの後ろには、みたことのあるビーネの部下が硬い表情で立っている。
「スカーとの戦闘で運良く生き残ったようだね。僕が命を張って助けた甲斐があったよ。国家錬金術師に貸しを作っておくのは実に気分が良いですね。」
そういって、後ろに向かって「ねぇ、フーバー。」と意味深に同意を求める。
「こ、こちらこそ助けていただいて……?」
アルフォンスもこの微妙な空気に、疑問を持ったようだった。
ここには俺たちしかいないのに?
ようやくビーネの右腕に気がついて、一応かしこまって「大丈夫ですか?」と聞いてみる。
「業務に支障が出ていてね。一人じゃ筆も握れない。」
と言いながら、俺たちの方へ向かって歩いてくる。
そして、籠に入った俺の……パンツ……を手にとって楽しそうに笑う。
……これはいつものビーネの笑顔だ。人を馬鹿にする時のヤツ。
「まぁ、パンツぐらい履きなよ。エドワード君。」
「いっ!言われなくても履く!!」
ばしっ。とビーネの手から奪い取ったトランクス。
急いで履けば、お尻に違和感があった。