第18章 『停滞』
「じゃ、エリシア。ここでちょっと待っていてね。」
「えー。兄ちゃんと一緒に行く!」
「おっと、エリシア。我がままちゃんは兄ちゃん嫌いだな。いい子にしてたら、帰りも乗せてあげる。」
「…はーい。」
む。とむくれたエリシアだったが、父さんの病室近くのベンチに座る。
「ここまででいいよ。歩くから。」
「ビーネ……」
「母さん、僕が自分の目で確かめる。僕自身で理解したい。」
ゆっくりと車いすから立ち上がり、父さんのいる部屋へと足を踏み入れた。
機械の数が減っている。
そして、カーテンの向こうには人の気配。
一人。
父さんか。
「父さん。」
ピタ。と動きが止まった。
カーテンに手を掛けて、ようやく自分の手が震えていることに気がついた。
最悪の事態を想定して、震えている。
「開ける」
「殺しに来てくれたのか。」
「……。」
自分の呼吸しか聞こえない。
「ビーネ。お前、俺を殺しに来てくれたんだろ?」
掠れた声。
これは、誰の声だったか。
「じゃぁ、グレイシアが頼んでくれたんだな。」
嬉しそうに上ずる声。
「さすがは俺の妻だ。」
くっくっく。と笑い声まで聞こえてくる。
「どうした。早く入ってこいよ。ビーネ。」
なんだ。こいつ。だれだよ。
怖い。
「俺の息子は随分と臆病者になったんだな。」
苦しい、息ができない。
荒くなる息に視界が歪む。
母さん、父さんがっ!
急に胃が押しつぶされたかのように、吐き気がこみ上げてきた。
胸を掴んでなんとか凌いだ。
「ビーネ。早く殺してくれよ。」
失ったものは二度と元には戻らない。
「自分じゃ死ぬ事も出来ねェんだ。」
アルの身体やエドの腕のように通行料で持って行かれたのなら別だ。
「もう、生きてる意味なんかねぇんだよ。」
ロイなら、どうするかな?
「脚一本じゃ、どーにもなんねぇんだよ。」
父さんを殺すかな?
「腕さえありゃな。自分でヤったのによぉ。」