第2章 『出会い』 2
「今日は私ではなく、彼の方があなたに聞きたい事があるそうです。」
ヒューズがそう切り出したところでようやく緊張の糸が切れた。
拳銃から手が離れたのなら、もう警戒する事は無いはずだ。
「あ、俺はエドワード・エルリックです。マルコーさんが錬金術研究所で、医療と錬金術の研究をしていたお話しを聞きたくて…。」
長い沈黙の後ようやくマルコーさんが重たい口を開いた。
「私は堪えられなかった…。」
そう切り出したマルコーさん。
ヒューズは自分の出番は終わりだという風に背もたれに身体を預ける。
「上からの命令とはいえあんな物の研究に手を染め、そして『それ』が東部内乱での大量殺戮の道具に使われたのだ…。」
「あんな、物?」
「本当にひどい戦いだった。無関係な人が死にすぎた…。私のした事はこの命をもってしても償いきれるものではない。それでもできる限りの事を…と、ここで医者をしているのだ」
東部の内乱…イシュヴァール殲滅戦。
当時の事を思い出し、マルコーさんの額には汗が見える。
話しを一旦止めてしまったマルコーさんを促すように、ヒューズが質問を投げかける。
「いったい何を研究して、何を盗み出して、お逃げになられたのです?」
「…賢者の石を作っていた」
賢者の石!
「私が持ち出したのはその研究資料と石だ」
思わずアルの方を向いた。
アルも驚いた表情でこちらを見ていた。
ごくり。と唾を飲み込み、言葉を絞り出す。
「……今、石をもってるのか?」
「あぁ。ここにある。」
マルコーさんは薬品棚から、一つの小さな小瓶を取り出した。
中に入っていたのは、振ればチャプンと揺れる赤い…
「液体?」
「石って…これ液体じゃ…え?」
驚く俺たちをよそに、マルコーさんは流れる動作でビンの蓋をあける。
「賢者の石にいくつもの呼び名があるように、その形状は石であるとは限らないようだ。」
そのまま机に向かってビンを傾け、中身を垂らした。
目の前には広がる赤い液体ではなく、コロンと固体になった赤い液体があった。
「だが、これはあくまで試験的に作られた物、いつ限界が来て使用不能になるかわからん不完全な物だ。」
「……不完全とはいえ人の手で作り出せるってことは、この先の研究次第では完全品も夢じゃないってことだよな。」
アルの身体が戻るかもしれない…!