第16章 『再構築』 3
「捨ててけよ!置いて行けよ!あんた、こんな下っ端に構ってる暇あんのかよ!ヒューズ中佐との約束があるんだろうが!!」
「おい、ハボ!やめろ!」
「見ろよ、人に支えてもらわなきゃ、上半身すらまともに起こせねェ、この体たらくを。同情なんて…いらねンだよ!!」
ハボックさんはロイの重荷になりたくないから、しがみ付くのを止めたんだ。
ロイは、こう見えて仲間思いだから。
「切り捨ててって下さいよ…諦めさせてくださいよ……頼むから…」
声は震え、力なく腕が降ろされた。
ロイの表情は僕の立っているところからでは確認できない。
「わかった。置いて行く。」
冷静な声。上に立つ者として大切な仲間を切り捨てるのは最も辛いことだろう。
「置いて行くから、追いついてこい。私は先に行く上で待っているぞ。」
思いがけないロイの提案にハボックさんは驚いていた。
まぁ、ロイがここまで言うのなら、僕らがなんとかしてすくいあげることは必要ないか。
リザさんがハボックさんの体をいたわって、寝かせてあげている。
「ハボック少尉、あの人はね、生きることを諦めようとした私でさえ、見捨てようとしなかった。また背中を預けると言ってくれた。捨てられないのよ。」
リザさんの言葉は母親のように優しかった。
「バカだ…そんな甘い事でこの国をのぼりつめられる訳ないじゃないっスか。」
「そういうバカが一人くらいいてもいいと思うわ。」
ロイはその言葉を背に聞きながら病室を後にして行った。
ようやく、穏やかな雰囲気に戻った病室で、息を吸った。
「久しぶりに顔を見たと思ったら、もう、居なくなっちゃうなんて。」
「ビーネ。悪かったな。女運悪くてさ。」
「ハボックさんはいつも高望みしすぎなんだよ。肩の力抜いてさ、僕も待ってるよ。ここで。」
「…ありがとな。」
ハボックさんの大きな手が、僕の頭をわしゃわしゃと撫でまわす。
「じゃ、ビーネ君。大佐を迎えに行ってくるからここで待っていてくれる?」
「あー、少しロイと話しがしたいんだ。しばらくしてからでもいいですか?ホークアイ中尉。」
「え。…はい、分かりました。ヒューズ少佐。」
言葉ばかりは丁寧に。
けれど、リザさんは笑顔で送り出してくれた。