第13章 『分解』 6
視界には二人の人物、どちらも良く知った顔。
「う…」
つんと鼻に付いた、形容しがたい異臭。
瞬間的に匂いの元を確認した俺は、それが何であったかを唐突に理解した。
焼けた死体、その腕には一際輝きを放つ、『MARIA ROSS』の文字。
「……どういう事だ…どういう事だ!説明しろっ!!いつだ。どうしてヒューズ中佐は殺されたんだ、どうして、ロス少尉がっ!」
「殺人未遂だよ、鋼の。」
冷静な大佐の声、その隣に控える人物は未だに動かない。
そこへアルフォンスが合流し、少し間をおいて口を開いた。
「どういう事ですか、大佐。」
「殺人及び殺人未遂を起こしたマリア・ロスが脱走し射殺命令が出ていた。それだけだ。」
「それじゃぁ、何の説明にもなってない‼」
「…隠していた事は謝ろう。」
アルフォンスの怒りもじりじりと焼けるように伝わってくる。
「なんで黙ってた‼」
焼死体の前に平然と立つ大佐の胸ぐらをつかんだのは、衝動的に。
けれど、俺は大佐に殴られ手を離した。
「上官に手をあげるか。身の程をわきまえろ。」
そんなことで怒りが収まるわけもなく、またも大佐に食いつこうとした時。
チャキ。
と、こめかみに冷たいものが当たるのを感じた。
「僕に、引き金を引かせるようなまねはよしてくれ。エドワード君。」
「ヒューズ…!!お前はそれで良いのかよ!」
こいつはきっと引き金を引かないだろう。
そんなことを心の端で思いながら、こいつも復讐がしたかったからなのか。とふつふつと怒りが湧く。
「逆上して冷静になれないのなら、監査官として君を処分しなければならない。」
遠回しな立場をわきまえろという言葉。
ギシギシと音を立てる思考を回して、少しは落ち着いた。
今、俺が騒いだってなんにもならない。
握りしめていた拳をほどくと同時に俺のこめかみに押しつけられていた拳銃も引き下がった。