第12章 『分解』 5
本当の父が死んだことも、人体錬成をしたことも、仲間を失ったことも、ロイに拾われたことも、父さんの家族になったことも、母さんと可愛い妹が生まれたことも、軍に入隊したことも、中将が亡くなった事も、父さんが瀕死の状態の事も……僕が、この世に生まれたことも。
「ほら。飲め。」
駅員がオレンジジュースの缶を差し出してくる。
反射的に受け取ってしまった。
「隣、座るぞ。」
どさ。と僕の隣に腰を降ろす駅員。
「良いって言ってねぇ。」
「年上を敬えってンだ。ガキが。辛気臭ぇ顔してんじゃねェよ。」
「してねぇよ。」
「してるさ。何もかも嫌になっちまったって顔。人生捨てたもんじゃねーぞ?」
なにがだ。
ガキの僕にはわからない。
空を仰ぎみれば、点々と白い雲が浮かんでいる。
「俺がお前ぐらいの年には、お前みたいに一人で旅がしてみたくて、何度も家出した。」
「そーかよ。」
「でよ、列車に乗ってしらねぇ土地まで行って、最高に楽しかったなぁ。」
くつくつと一人で昔を思い出して笑う駅員。
「お前は何か目的があってここまで来たんだろ。そんな感じだ。使い込まれた靴を見りゃわかる。何のために軍人なんかやってるのか聞かないが、辛気臭い顔したガキ軍人がいりゃぁ、気にもなるさ。」
「何で、軍人だとわかった?」
「俺は長年駅員をやってる。靴や鞄、着ている物を見りゃその人の仕事が見えるようになった。職業病だな。いくら変装したって俺の目はごまかせねェ。」
駅員を横目で盗み見れば、おっちゃんだった。
若そうなしゃべり方をするが結構年をとっているようだ。
「なら、僕からも一つ。あんたもスリなんかやめな。見逃してやるから、足を洗え。」
「………やるな、兄ちゃん。」
「どうも。」
犯罪者と軍人が肩を並べてベンチに座る。
奇妙な図だなオイ。
「うし。仕事に戻らぁ。兄ちゃん、決して腐るんじゃねぇぞ!俺が言う事でもねェが、お前は俺より綺麗な体してるんだからな!」
わははは!と駅の中に戻っていく駅員。
バーカ。お前の方がよっぽど綺麗な体してるよ。
「ったく。」
もし、彼らが中央で父さんの事を知っても、僕は腐らずにいられるだろうか。
そうなったらまたここへ来て、おっちゃんにジュースを奢ってもらおう。
あ、そうだ。
母さんに連絡をしよう。
それと、そろそろ中央に移動になっているロイにも。