第1章 『出会い』
「エルリック兄弟がまだ宿にいるか確認しろ。至急だ!」
「大佐。私が司令部を出る時にエドワード君たちと会いました。そのまま大通りの方へ歩いて行ったのまでは見ています。」
「こんな時に…!」
ばたばたと出て行くロイとリザさんに慌てる父さんと少佐。
「今、鋼の錬金術師がここに来てるんだ。」
「なっ!」
「む…」
車を出せ!と叫んでいるロイ。
少佐は慌てて彼らの後に続き、僕と父さんは数人の部下を連れて静かに大通りを目指した。
「ビーネ。いざって時には臆せず錬金術を使え。」
「……。」
「いいな。」
大騒ぎになっている大通りへ到着し、車から降りてすぐにそう耳打ちされた。
錬金術を使う。
僕にとっては大罪を犯した記憶を一から掘り起こし、鮮明に蘇らせるもの以外なんでもない。
恐怖と後悔。
「今は、俺と一緒に隠れていよう。」
過去の過ちは決して許されるものではない。
ただ、見て見ぬふりも出来ない。
「…うん。」
目の前では、劣勢のエドワード君とあれがきっと傷の男・スカーだろう。
ロイが空砲を放ち一時戦闘の注意を逸らした。
「そこまでだ。」
カツ、カツ。
と二人に近づいてくロイの背中は大佐としての威厳が感じられた。
「タッカー邸の殺害事件もきさまの犯行だな?」
ロイの言葉にエドワード君が反応を示す。
彼は合成獣ニーナの事をすごく気にかけていたから…。
「錬金術師とは元来あるべき姿の物を異形のものへと変成する者。それはすなわち万物な創造主たる神への冒涜。我は神の代行者として裁きを下す者なり!」
広場に響き渡る朗々とした演説。
「てめぇは神の代行人なんかじゃない!ただの人殺しだ!」
エドワード君の咬みつくような吠え声。
じりりと緊張感が高まる。
「鋼の、加勢する。」
「マスタング大佐!」
「おまえ達は手を出すな。」
ロイの独壇場になるだろうと、誰もがそう思ったかもしれない。
けれど、リザさんだけは冷静だった。
スカーの演説にも負けないほどに自信たっぷりに自己紹介を終え鼻高々のロイ。
発火布の手袋を見せつけるように前進し始めたロイをリザさんは遠慮なく足を引っ掛けた。
「いきなり何をするんだ君は!」
「雨の日は無能なんですから下がっててください。」