第16章 たまには素直になるのも大事【帰省編③】
お菊さんから話を聞き、向かった先は母上のいる部屋だった
「沖田様が…どうしても奥様にお会いしたいと…。旦那様に伺えば必ず反対なさると思いましたので勝手ながら私の判断で通してしまいました」
『…』
申し訳なさそうに話すお菊さんから視線を母上の部屋の襖に移す
私も…父上だけじゃない、母上ともしっかり向き合わなければいけない。
そう思いながら襖に手を掛けた次の瞬間、中から沖田隊長と母上の話し声が聞こえ、私はその声に襖に掛けていた手をそっと下ろした
「結衣は…そちらでは元気にやっているのかしら?」
「そうですねィ…うるせェくらいに」
「そう、良かった」
沖田隊長の言葉に安心したようにホッと溜息をつく母上の声は以前よりも更に弱々しくなっていた
「あの子には小さい頃ずっと寂しい思いをさせてしまっていたから…今も一人ぼっちでいるんじゃないかって心配だったの…。本当は今すぐにでもあの子の元へ行ってあげたいのだけれど、もう身体もまともに動かせなくて…」
母上…。
「…駄目ね私。
あの子が一番辛い時に傍にいてあげられないなんて…今も昔も私はあの子の母親失格だわ」
違う…違うの母上…
悪いのは全部私の…っ
「失格なんかじゃねェですよ」
『!』
沖田隊長の言葉に驚いて顔を上げる
「俺は両親とか物心つく前に死んじまってよく覚えてねェですけど、あいつがアンタの話するの聞いてると…親子っていいなって思いまさァ」
「…」
「あいつはアンタのこと大事に想ってます。そしてアンタもあいつのこと想っているなら…きっとそれが1番だ」
『…』
「親子ってのはァ…それだけで十分なんじゃねェですかィ」
沖田隊長…。
「…あなた…もしかして…平河さん?」
「!」
『!』
「前にね、結衣が言っていたの。一生ついて行きたい憧れの人がいるんだって…貴方のことだったのね…」
『…』
きっと母上の言うその人物は彼、平河隊長のことだ。
『そっか…。知らないんだ平河隊長が死んだこと』
だから目の前にいる沖田隊長を平河隊長だと思ってるんだ。
「…もしかして違ったかしら?」
「…いえ、合ってますよ」
えっ。
「真選組特別部隊隊長、平河でさァ」
な、なんで…。