第11章 人の話は最後まで聞くべし【沖田視点】
それから時間はあっという間に過ぎ、待ち合わせの時間に案の定5分遅れて大石はやって来た
まぁ、こいつが時間通りなわけねェか。
「何ボサッとしてやがんでェ、行くぜィ」
『あ、はい…』
始めはぐちゃぐちゃと文句を言っていた彼女だったが、しばらくすると大人しくなり、黙って俺の1歩後ろをついてくる
そんな大石を不覚にも可愛いと思ってしまった俺は相当末期かもしれねェ。
「お、あったあった甘味屋」
しばらく歩いた先で例の甘味屋を見つけた俺は大石を連れて中に入った
「いらっしゃい」
店の奥から出てきた店員に俺は軽く会釈をすると大石に先に座っとくよう指示した
「お雪さんいつもの頼まァ」
「また来てくれて嬉しいわ」
「ここの餡蜜うめぇからあいつにも食わせてやろう思ってねィ」
「あいつ?」
「あそこに座ってるの…俺の部下なんでィ。女だけど結構気ィ強ェし、ウチでは誰よりも芯が強ェ。…まァたまに抜けてるとこもあるけどねィ」
そう言って大石を見つめるとお雪さんはフフッと笑い俺を見つめた
「じゃあそんな彼女の上司であるアナタはひょっとしてあの子が好きだったりするのかしら?」
「…」
「フフッ冗談よ。でももしそうだとしたら、ちょっと残念。私…総悟くんのこと好きだったのに」
ほんのり頬を染めてそう言う彼女を俺はクスッ笑い見つめた
「からかうのはやめてくだせェよ」
「あら、やっぱりわかっちゃった?」
「…からかい上手なのはアンタの十八番ですからねィ…。
それに、いるんだろィ…忘れられねェ人が」
俺の言葉にお雪さんは少し俯き、やがてそっと微笑んだ
「ええ、…」
「なァ、アンタが想うそいつは…」
「さっ、餡蜜出来たわよ。あの子の所に持って行ってあげて」
話を逸らすかのように俺に餡蜜を持たせ背中を押すお雪さんを不審に思いながら大石の座る席に向かうと何故かそいつは店の柱に頭を打ち付けていた
「…何してんでィ」
『あ、いえ!な…何でもないです』
大石は苦笑いして俺が持ってきた餡蜜に目を向けた
はぁ…なんで俺はこんな変な女を好きになっちまったんでィ…。
けど…
「美味ェかィ?」
『はい!すごく美味しいです!!』
そう言って笑う大石の顔を素直に可愛いと思ったのは事実だ