第63章 死なばもろとも 佐賀美陣
「ご飯食べに行こう」
いきなり私の家にやって来て、インターホンをならした。
とりあえず入ってくるように告げて、玄関まで小走りで向かった。
雨なのに、傘も指さないで。大人気アイドルが、無防備にも女の家に上がり込んできた。
「…………………ばか…ッ…」
私は濡れ鼠となった彼の腰に手を回した。どう頑張っても、私の頭は彼の胸にまでしか届かない。
すっかりやつれて、細くなっていた。
「…………やっと、会えた」
陣くんは弱々しく呟いて、私を抱きしめ返した。
ご飯を食べに行こうと彼は言ったがそれは無理だ。さすがにもうあの頃みたいに自由に振る舞うのはお互い難しい。
私がご飯を作る間、風呂に入るように言った。一度だけ泊まりに来たことがある時に置いていった服を脱衣所に置いておいた。
「ありがと、あんずちゃん」
彼は風呂上がりにそう言った。とりあえず席に座るように言って、一緒にご飯を食べた。
「…………ッ美味しい」
嬉しそうに笑っていた。ご飯も食べてなかったのだろう。楽屋のお弁当、写真とって放置してたな。
「あのさ、普段…何もできなくてごめんな」
「仕事が忙しいのはお互い様」
「いやでも、会えなくて寂しいな~と」
「SNS見て」
「……………出たよ現代人」
陣くんは他愛もない話にニコニコしていた。何が面白いのかと聞いた。
全部、と彼は答えた。