第62章 オタクと忍者 仙石忍
「……ったく、何事かと思ったぜ」
救いの神のように、その人は私たちの前に現れてはしごをかけてくれた。
「天井から笑い声が聞こえてくるからよ。」
大丈夫か、と彼は私たちの顔を覗き込む。
「鬼龍先輩ッ!!!」
「鬼龍殿おおおおおおお~~~ッ!!!」
私たちは勢いよく屋根裏部屋にのぼってきた神に抱きついた。戸惑いを見せた彼は、しばらくしてからにっこりと笑った。
「おう、怖かったな。掃除よく頑張ったじゃねえか。ありがとな。」
ポンポン、と後輩二人の頭を軽く叩く。その瞬間、心の中で“大将”の二文字が浮かんだ。
なるほど、鉄虎くんの気持ちがよくわかった。
「ってことがあって大変だったんだからね。」
「はは……それは……………すまん。」
結果報告ということで真緒くんに掃除が終わったことを伝えに言った。忍くんは委員会に呼ばれたとかでもういない。本当にアイドルって忙しい。
「ねぇ、真緒くん。あのさ。」
「ん?まだ何かあるのか?」
「忍くんにおすすめしたいものがこちらになります」
私が掲げた雑誌を見て、彼は苦笑した。
「また変なこと言ったって気にしてるのか?」
「う………だって、私、無神経だから」
彼は私が差し出した忍者アニメ特集の雑誌を受け取った。
彼が憧れる忍者を悪く言ってしまった気がして、いてもたってもいられなかった。
発言には気を付けろと多々言われてきた。真緒くんもそれは知ってくれている。
「気にしすぎもよくないぞ」
「…………私、それくらいしないと」
「わかってる…。仙石には上手いこと言って渡しとくから。」
真緒くんはそう言った。直接渡して謝る勇気もない私を、忍くんはどう思うだろうか。
あぁ、本当に情けない。
もういっそのこと、こんな口は閉じてしまえたらいいのに。