第61章 空蝉の夏花、誰と見るのか 明星スバル
私達はそこから動けないでいた。何を言うにも、浅はかに思われた。
大吉くんはスバルの元にトコトコと歩き、寄り添っているうちにすっかり寝てしまった。
空が、黒になった。
その様子をただ見ていることしかできない私達は、何をすれば良いのだろう。
でも、居心地は決して悪くない。
このまま黙って二人と一匹で、揺れる水面を見ているのも悪くない。
そんな気もした。だから、何か話そうとは思えなかった。
そんな静寂を切り裂いたのは、ヒュルルルルというあの特徴のある音だった。
少し遅れて、パァンと音がなった。
大吉くんが起きるのではないかと思ったが、全くその気配はなく脱力してスバルに寄りかかったままだった。
「……カリウムだ」
紫色の花火。
視界に入った途端、ついそう口に出していた。
「……………炎色反応?」
「うん。」
スバルとの会話が久しぶりに成立した。こうなれば、幼なじみなんて簡単だ。
「昨日の帰り道、スバルに花火に誘われて嬉しかった。」
花火の音に負けないように、しっかり声をだした。
「でも、幼なじみってだけで君と一緒に花火を見るのは違う気がした。スバルは、もっと他の人といた方が楽しいんじゃないかなって思った。」
花火から目をそらさないでいた。スバルも同じく、空に咲く花を見ながら喋りだした。
「……幼なじみとか関係なく、俺はあんずと一緒に花火が見たかったんだ。今年こそは誘おうって……そう勝手に決めてたから、断られてちょっとへこんだ。」
星形の花火が上がった。でも、平べったい不格好な星だった。
「今日1日あんずとしゃべんなくてさ、あーあ、何やってんだろって自分が嫌になって……夏目に相談してさ、まあそんなこと相談されても困るってちょっと怒られたけど。」
「…あぁ、スバルが相談してたのこのことだったんだ。私は相談したとき…………色々あって夏目くんに八つ当たりみたいなことしちゃったんだよね。」
そして空を見ながら事の顛末を説明した。腕輪……うん、オシャレに言うならブレスレットらしい。あのブレスレットのことを伝えると、
『夏目にやられた』『もうやだめっちゃ恥ずかしい』とかなんとか喚いていたけど、すぐに元のスバルに戻った。
顔は、真っ赤だったけど。