第61章 空蝉の夏花、誰と見るのか 明星スバル
どうしようも戸惑っていると、入り口の方からガシャン、と音がしてバン!とプールサイドに人間が着地する音がした。
手を軸に体を浮かせ、着地したのだ。
スタントマン顔負けの動きを見せたのは………まごうことなき、私の幼なじみ。
「………」
しかも超不機嫌。
「あ、あの、大吉くん、出られないみたいだったから」
大吉くんも主人の不機嫌が分かるのか私の後ろに隠れてしまった。
「勝手に、連れ出したわけじゃ…」
しかし私の言い分は聞かず、スバルくんはズンズン近づいてきた。
ガッと私の右手をつかんだ。
痛い、と思う前にあの腕輪が気になった。私がそれに目をやると、スバルはそれに手をかけた。
まさかと咄嗟に動けないでいると、本当にそのまさかだった。
金属に見えたが、実は塗装されただけの柔な素材でできた腕輪だ。だから安物だとわかった。
男の子が、やろうと思えば引きちぎれるくらいの。
「ちょっと、スバル」
やめてと声を出すよりスバルが速かった。そのまま腕輪を力を入れて引っ張った。
暗くなろうとする夏空のオレンジに、キラリと飾りの星が輝いた。
ポチャン、ポチャンと音がした。
スバルに引きちぎられて、プールに全部落ちた。
「…………夏目のなんて、いらない。」
ポツリとそう言われた。
「………………スバル?」
「俺……………」
「………」
彼が、何を言おうとしたかなんて知らない。でも私が言うべきことは分かる。
夏目くんは引きちぎったとしても怒らないからと言った。大切にしたかったし、正直何が起こったのかも今一分かっていないけどくれた本人がそう言うなら私が何かを言う必要はない。
「…………昨日、ごめんね。」
私がそう言うと、スバルはハッとした。
「…………………………俺…今、何した……?」
怒りがおさまったのか、呆然としていた。
腕輪の落ちたプールが、ゆらゆらと風に揺れていた。
水面下に輝く星が、一瞬見えてすぐに見えなくなった。