第61章 空蝉の夏花、誰と見るのか 明星スバル
夏目くんと話している間に、バスケ部は終わってしまったらしい。
今日は軽い練習だったからと衣更くんが教えてくれた。そのついでに、
「スバルなら飼い犬探しに行ったぞー。仲直り頑張れよ。」
と言われた。
……………隣のクラスの人間に見抜かれるほどあからさまだっただろうか。
とりあえずそう言われ、大吉くんが行きそうな場所を探し回った。
の、だが。
「ワンッ!!!!」
いた。
あっさり、いた。
スバルはいないけど………。
プールの柵をそのプヨプヨの体でどう飛び越えたかは知らないが、鍵のかかったフェンスの向こう側にいた。
「大吉くん……こっち来れる?」
おいで、と手招きしたが無駄にフェンスをガリガリ引っ掻くだけで飛ぼうともしない。飼い主のいないところで奇跡の跳躍を見せ飛び越えたは良いものの、帰ってはこれないらしい。
「……………しょうがない。」
私はフェンスにしがみついた。太った小さな犬には無理でも、人間の私なら越えられる。
中に降り立つと大吉くんはすぐ飛び付いてきた。
「ワンワン!!ワオーン!!!」
「うんうん、会えて嬉しいよ。」
尻尾を力の限り振り続ける大吉くんを優しく撫でて、フェンスの向こうに運んでやろうとした。
が、大吉くんは抱き上げようとすればするりと逃げまた抱き上げようとすればするりと…………
「ワンワン!!」
『ねえこの遊び楽しいね!最高だね!!』
そう言わんばかりに吠えてくる。
「……行こうよ、ねぇ。」
あまりここにいるとよくない。絶対怒られる。
「…………ほら、行こう?」
彼に手を伸ばすと………
「ワン!」
一際大きな声で吠えた。え、と思うと右手の腕輪が気になるらしく、くれくれと<ちょうだい>をしてきた。
わあ芸達者!とかそんなこと考えている暇はない。
よくわかんないけど折角もらったのだ、大切にしたい。
「これ夏目くんからもらったの!!絶対ダメ!!」
君にはあげない、と言い張るとクゥーンクゥーンと悲しげな声を出した。
………なぜ動物はこんなにも素直なのだろうか。
すごく胸が痛んでしまう。