第61章 空蝉の夏花、誰と見るのか 明星スバル
「とにかク、すれ違いまくってるのはわかったヨ。」
夏目くんは耳から手を離して一呼吸おいた。
「子猫ちゃんはどうしたいノ」
彼が、唐突にそう言った。
「花火、バルくんと見たいノ?見たくないノ?」
「………………………」
「君さァ」
変なことばかり気にしてない____?
夏目くんのその言葉がやたらと耳に残った。
「自分のやりたいことをやったラ?周りのことなんて置いといてサ。」
「…………………………」
「バルくんを嫌いってことじゃないんでショ?」
「そりゃそうだけど。」
「じゃア、答えは簡単だと思うけどナ。」
夏目くんはクスクス笑った。髪の毛が小刻みに揺れて、サラサラと音がした。
「その答えは………よく、わからない。」
その音にさえかき消されそうなか細い声で反論した。しかし、そんな小さな音に負けるはずもなく当然夏目くんには聞こえていた。
「子猫ちゃん次第だってバ」
夏目くんが冷ややかに私を見下ろした。髪をかきあげてああもウだとか、唸りだした。
苛立っているようだ。本当に申し訳ない……今日は、来てはいけなかったのかも。
「思春期爆発幼なじみなんてボクの範囲外なんだけド」
ムスッとした夏目くんが……
衝撃の発言をした。
「ア」
彼も気づいたのか、すっとんきょうな声をあげた。
「…………………明星くんが、言ったの?」
私から驚くほど低い声が出た。幼なじみということは隠せとあれほど言ったのに…。
「アー…………いヤ、ボクが無理やり聞き出しただけというカ…」
夏目くんはアハハとから笑いしながらガシガシと髪を乱した。綺麗なアシンメトリーがあっという間に崩れてしまった。
「…やだなア……起こらないでヨ……。別にいいと思うけド?ボクは何とも思わないシ…聞いたときはちょっとビックリしたけド。」
相変わらずひきつった笑顔を浮かべ続ける夏目くんにため息しか出ない。
頑張ってイライラを抑えようと、私は深呼吸を繰り返した。