第61章 空蝉の夏花、誰と見るのか 明星スバル
私は早歩きで図書室へ向かった。放課後が始まったばかりのここはガランとしていて、いるのは眼鏡の図書委員さんだけだ。
「あの、夏目くんいますか。」
カウンター越しに尋ねると、先輩はやんわりと微笑んだ
「地下にいますよ。」
「ありがとうございます。」
一礼して、地下へ向かった。
秘密の部屋に行けば、待ち構えていたかのように彼はこちらを向いて椅子に座っていた。
あんな椅子、初めて見た。勝手に持ち出したのだろうか。
「ボクは恋愛相談師じゃないんだけド」
フゥ、と溜め息をつく夏目くん。
「恋愛相談なんてしないよ。」
「君はネ。でもバルくんはしてきたヨ。」
まあ座りなよ、と適当に床を指差す。私に椅子はないらしい。まあ、彼からしたら招いていない客人だし当然だ。
「全ク、子猫ちゃんと二人でいると後がうるさいから困るんだけド。」
「………………ごめん、今日は帰った方がいいかな」
「あァ、そこは気にしなくていいヨ。それより相談があるんだろウ?」
夏目くんは面白そうにクク、と笑って椅子から身を乗り出した。
いざこざに首を突っ込むのが好きなのか、彼はこうして悩み相談を進んで受けてくれる。ありがたいけど、からかわれている気もして複雑だ。
「………………明星くんが、花火を見に行こうって誘ってきたんだけど………断ったんだよね。」
スバルと幼なじみということは内緒だから、明星くんと呼ぶ。これにはいつも違和感がある。
「うン、そこらへんはバルくんから聞いたヨ。」
「……?明星くんは恋愛相談したんでしょ?」
「……………」
ピタリ、と夏目くんの動きが止まった。そんなに動いてもいなかったけど、本当に微動だにしなくなった。
「アッハッハッハッハッハッ」
突然、カラカラ笑いだしたかと思えばギュッと耳を引っ張ってきた。
「え?いた、いたいよ!?」
「アッハッハッ、風穴開けて貫通させてやろうかマジデ。」
夏目くんの不思議な行動は私が無理に振りほどくまでしばらく続いた。