第61章 空蝉の夏花、誰と見るのか 明星スバル
次の日、学校に行った。スバルと毎朝出くわすのが日常だが、昨日あんなことを言ってしまったので会いたくなかった。
スバルよりだいぶ後に登校した私を、クラスメイトの何人かが心配してくれた。
ちょっとした寝坊だと伝えておいた。
スバルは、おはようも言いに来なかった。昨日のことを謝りたくてもタイミングが掴めない。
花火は、今日の夜に上がるのに。
スバルは男の子だし、男の子と見た方が楽しいのではと思った。
私が幼なじみだってだけで、私と一緒に何かをするのは違うと思う。
…………………………………それだけなのに。
「あんず、昨日帰った時に明星と喧嘩したのか?」
あの鈍い氷鷹くんでさえそう言ってきたのだ。
これはまずい。皆に余計な心配をかけてしまう。喧嘩なんて数えきれないくらいしてきたけれど、今回はどう考えても私が悪い。
(花火見に行こうって誘う?でも、昨日断ったし。うぅ、ひどいこと言ったとは私も思うし………。)
授業中はひたすら悶々と悩み、何もできないまま放課後になった。スバルはこちらをちらりとも見ずに教室から出ていく。
きっと部活に行ったんだろう。
完璧に謝るタイミングを逃してしまった。
「あんず、本当に何があったんだ。俺には言えないことなのか。なら、遊木には言えるか?放っておけない、あんな明星は初めてだ。」
しかも氷鷹くんがしつこい。遊木くんを巻き込むのはやめてあげてほしい。すごく戸惑ってるから。無理やりこっちまで連れてきたでしょ、制服のシャツがシワシワのヨレヨレだから。ベストのびるから。
「いや…本当に何でも……」
「嘘をつけ、俺達は仲間だろう」
……………そんな重い話ではないのだが。
「とにかく、少なくとも君に言うことは何一つないよ。」
しつこさにちょっと腹が立った。沸点が低いのは私の最大の汚点だ。
ごめん、氷鷹くん。
私はそれを口にせず、飛び出すように教室から出ていった。