第61章 空蝉の夏花、誰と見るのか 明星スバル
四人で帰ると、一番家の近い明星くん以外とはすぐ別れてしまう。
その、別れた途端に。
「あんずー!!」
「うわ、ちょっと!」
ギュッと手を繋いで、グルグルとその場で回りだした。
私達の関係を内緒にしていることもあって、誰もいなくなるとすぐに枷が外れてしまう。
「スバル、目が回っちゃうよ……!」
「ああごめんごめん!俺嬉しくなっちゃって!」
私達は、小さい頃からの幼なじみだった。でも同じ年の男女が一緒にいると変な噂が嫌でもたつので、絶対に秘密にしてほしいとお願いしたのだ。
「ねえ、今日は家で晩御飯食べていきなよ!!母さんもいるしさ!」
「いや、昨日もお邪魔したし…」
誘っているわりには強引で、私の手をつかんで離さずに走り出した。
夏で暑いのに勘弁してほしい。
「花火綺麗だったねー、もう一回見たいな!」
スバルは私の気持ちなどつゆ知らず、そのまま家へ向かっていく。もう諦めて、私は走りながら彼に伝えた。
「弟が明日も花火を見に行くって言ってたよ。二日連続で打ち上げるみたい。」
「へー!じゃあ一緒に見ようよ!」
「人の多いところはなあ…」
スバルは私のペースに合わせて走ってくれている。こういうところは、小さい頃からずっと変わらない。
背が高くなって、目線が変わって、声も変わって。
握っている手も骨ばってゴツゴツしている。
(………男の子、だなあ。)
「花火……他の子と見たら」
そう思うのと、口に出すのはほぼ同時だった。軽快に走っていたスバルが足を止め、私も止まった。スバルはキョトンと立ち尽くしていた。
「………何で?」
スバルはそう言った。
私は、答えられなかった。
「やっぱり、ご飯は家で食べるよ。誘ってくれてありがとう。また明日ね。」
だから代わりにそう言った。