第61章 空蝉の夏花、誰と見るのか 明星スバル
「あ、花火だ!!」
遊木くんが夜空を指差す。私は彼の指を辿り、空へ目をやった。
trickstarのレッスン帰りに、四人で下駄箱から出ていくとベストなタイミングで花火が上がったのだ。
「あー、そういや今日……友達と花火見に行くとか妹が言ってたなあ。」
「この花火はどこで上がっているんだ?」
「ほら、コンビニの近くの河川敷で………」
衣更くんと氷鷹くんの話を聞き、弟もそんなことを言ってたとようやく思い出した。
その時、一際眩しい光を放つ花火があがった。
「…………マグネシウム」
ポツリ、と私が呟くと皆が一斉にこっちを見た。
次に、赤色の花火。
「リチウム」
そこまで言うと流石に気づいたのか、衣更くんがほとほと呆れたように話だした。
「あんず………………炎色反応はちょっと置いておこうぜ……」
「え、だって花火でしょう?」
「お前からしたら花火イコール炎色反応なのか!?」
コクンと頷けば衣更くんだけでなく、全員がはあとため息をついた。
「もー、あんずは真面目ちゃんなんだからー。そんなんじゃホッケーみたいになっちゃうよ?………ってやだやだ!!俺そんなあんずやだ!!」
「………お前が言い出したんだろう。」
氷鷹くんは軽く明星くんを叩くと、ちらりと私を見やった。そして軽く頭を下げてきた。
「……………………金平糖が好きだ」
「え」
「おばあちゃんがそう言っていた」
「ごめんあんず本当にホッケーにならなくていいから。」
「お前そこで真顔の指摘はおかしいだろう。」
頭を下げてきたのは『俺みたいになってくれ、よろしく頼む』の意味ではなかったらしい。
「天然だなあ氷鷹くんとあんずちゃんは!そんなことしてる間にもうクライマックスだけど?」
遊木くんにそう言われ、あっと空を見上げた。
目映いばかりの火花が無数に散り、手の届かないところでバラバラと落ちていった。
この瞬間は、いつも虚しい。
皆そうなのか、しばらく呆けて何もない夜空を見上げていた。