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短編集…あんさんぶるスターズ!【あんスタ】

第58章 さようなら、イチゴオレ  氷鷹誠矢


それから時は流れ、誠矢は今でもアイドルとして活動していた。
愛する家族に、逝ってしまった友人。
色んなことがあった。


「父さん」


久しぶりの休みに、家でくつろいでいると息子が声をかけてきた。


「これ、さっき会った人に渡された」


用事はそれだけと言わんばかりに息子はリビングから出ていこうとした。


「……誰からです?」

 
息子が渡してきたお洒落な紙袋の中を確認しながら誠矢は尋ねた。まさか自宅を特定したファンだろうか。


「男の人だ、友達とかじゃないか」


ぶっきらぼうに答えて一応立ち止まってくれた。

誠矢は紙袋の中にあるものを見て、固まった。


「……………………どうした?」


息子は動かない父親に眉を潜めた。































































『誠矢っていい名前だな。』


朝霧は唐突に現れてそう言った。


『少し物騒な名前ですけどね。聖なる夜のセイヤならよかったんですけど』

『はは、そうでもねえさ。』


その時だけは愚痴を聞かされなかった。朝霧の手元にイチゴオレはなかった。


『俺はこの学院が好きだ』


いきなりの発言で誠矢は驚いた。朝霧は心の底からの言葉のように、大事にそう言った。


『皆にも好きになってもらいたいな!』

『朝霧さん……』

『ははッ、そうしたら俺は…』


そして、微笑んだ。


『………………自分の名前を誇らしく名乗れると思う』



































紙袋の中に入っていたイチゴオレを、誠矢はゆっくりと飲んだ。

あの一つ年上の生徒会長の高笑いは今でも思い出せる。


『朝霧聖夜』


あのあと、週刊誌で何回かその名前を見かけた。



聖なる夜に産まれて、学院の生徒会長として生徒達に寄り添い続け、イチゴオレが大好きだった先輩。


自分の名前が嫌いだったという。


学院を愛してくれたかつての生徒会長の顔は思い出せない。

でもこのイチゴオレの甘ったるい味と、どこまでも轟くような高笑いと





彼と過ごした日々だけは、決して消えない。
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