第58章 さようなら、イチゴオレ 氷鷹誠矢
何でかくれんぼなのかと朝霧は聞いた。
誠矢はすぐにできるからだと答えた。
朝霧は、言った。
『かくれんぼ、苦手』
その時もイチゴオレを飲んでいた。
彼のイチゴオレ好きは有名だった。差し入れもそれが多いから頑張って消費しているらしい。
『俺は芸能人やだな』
朝霧は独り言が多い。誰も聞いちゃいないのに勝手に話し出す。
『親父みたいなのやだな。普通に、結婚して……男の子がいいかな。子供は。肩車してやりたい。』
生徒会長という人間がなぜやたらと誠矢の前に現れるのかわからなかったが、どうもこれは学院の生徒全員に当てはまるらしい。
ふらっと現れては愚痴をこぼして消えていく。
誠矢は親の愚痴を聞かされることが多かったが、他の生徒達は委員会や部活、バイト先などの愚痴らしい。人間によって言うことを分けているようだった。
『アイツは生徒会、アイツは先生、お前は家族。』
イチゴオレを片手に朝霧は笑いながら教えてくれた。
『愚痴も分けねえとな』
彼の口からはいつも愚痴だった。面白い話は聞かなかった。
それでも不思議と彼の愚痴は嫌な気はしなかった。
『俺が愚痴を言うと皆愚痴で返してくる。たまってるんだろうな、よっぽど。何も言ってこないのお前くらいだよ。』
朝霧は愚痴を人で分けていた。でも皆は全ての愚痴を朝霧に吐き出していた。
それを朝霧はイチゴオレと一緒に飲み込むのだ。
甘いものでもないと辛辣な愚痴は聞けないのかもしれない。
『氷鷹は学院、好きか?』
誠矢は無言で返した。
『俺はな』
朝霧は笑った。
誠矢は眩しくて、直視できなかったことを覚えている。
それだけを、覚えている。