第57章 最後に見た彼は 椚章臣
斎藤は隣の席の佐賀美が心配するほど煮詰まりながらも、何とか夕方までには自分の仕事を終わらせ部活に顔を出した。
パンフレットのオーケーを無事にもらい、稽古を見てアドバイスをしたり、生徒とふざけあったりして部活は終わった。
斎藤が部室から出たあと、片付けをしていた部員三人は賑やかに話し合いを始めた。
「斎藤先生、やっぱりすごい人ですよね。あんな的確に演技指導ができるなんて…。」
「あの人、本当は大学受験じゃなくて演劇の道を目指していたらしいぞ。」
「え!?そんなすごい人なんですか!?」
「いくつか賞もとったらしい。ですよね、部長?」
氷鷹が相変わらず騒がしい日々樹に話をふった。当然、彼は嬉々として答えた。
「ええ!三年間、部活を通して付き合ってきましたが確かですよ。」
「じゃあ何で教師になったんだろう……専門科目は生物だし、全然関係ないのに。」
真白と氷鷹が頭を悩ませる横で、日々樹は話し続けた。
「気分が変わった~だなんておっしゃってますけどね、私は違うと思いますよ。」
少し前、佐賀美が考えていたことは合っていた。
斎藤と日々樹は、確かに波長が合うのだ。だからこそ日々樹には斎藤の気持ちがわかるのだ。
「ああいう人が自分をねじ曲げてまで行動するときは、誰か………他の人が関係しているんですよ。」
日々樹がそう言い、部員達は顔を見合わせた。
「誰かのために…」
「教師になった……?」
「ま、嘘ですけどねッ!!」
バチーンと日々樹が華麗にウインクを決めた。
次の瞬間、彼に向かって氷鷹と真白が飛びかかり出すのだが、それは彼ら三人だけが知ることである。