第57章 最後に見た彼は 椚章臣
A組の授業が終わり、外に出ていくと椚と鉢合わせた。どうやら、次の授業は彼のようだ。
「どーも。さすが十分前の男ですねえ。」
「……生徒の前で馴れ馴れしい態度はよしなさい」
教師の不穏な空気にざわざわと周りの生徒が声をあげる。椚はそれに目を細め、取り繕うようにずれてもいない眼鏡を整えた。
それを馬鹿にするように斎藤はヒラヒラと手を振って職員室に戻った。
一見上機嫌に見えたが、自分のデスクに腰を下ろすやいなや豹変した。
隣のデスクの佐賀美がやれやれと彼女を見やると、斎藤はギリギリと歯を鳴らして足を乱暴に組み、頭を抱えていた。
「はるひちゃんもよくやるよねー。大丈夫?」
「ええもちろん……今日も無事に脳内で三回刺したわ。」
「何が無事なのかなー。ま、脳内だけに留めとけよ。」
いつも澄ました顔をしてはいるが、その実沸点が低い。佐賀美の前ではだいたいこんな感じで、職員室では日常茶飯事だ。
「アイツ…ッ………ほんっと嫌い!!まじ嫌すぎて吐き気する!!」
「まーまー。でもそんなやつとこーんな関係なのははるひちゃんでしょ?」
佐賀美は両手で綺麗なハートを作った。
「あぁ?その指へし折るよ~陣…?」
斎藤はゴキゴキと指をならした。陣は危機を感じてすぐさまハートを崩した。
「ごめんごめん、でも昔っからの二人を知ってる俺としてはほっとけないんだよな~。普通科の校舎を無理してうろつくあきやんを思い出すと……ふ、ふふ…一目惚れって…めっちゃ嬉しそうな顔してて……ぶっく、く…」
「陣、明日から命ないぞ?」
「照れんなよ、告白されてコロッと落ちたのははるひちゃんだろ?」
佐賀美がポン、と斎藤の肩に手を置く。斎藤は素早くてを伸ばし、容赦なく佐賀美の手をつねった。佐賀美の絶叫がしばらく響き、二人は他の教師からこっぴどく叱られてしまった。