第56章 それはそれは 七種茨
店につくと、カップルで席はいっぱいだった。彼が予約していてくれたというのですぐに座れたが、私は思い切りしかめっ面を隠すこともなくさらけ出していた。
「アウェイだね……」
「……?何か不都合でも?」
いやね、私はカップルしかいないのに、ただの業務的な仲でしかない私たちがこの店にいるのが何となあく駄目なことのように思えてね……………。
と、いう言葉をグッと飲み込んだ。今口に出せば悪態は留まることを知らずに永遠と吐き出され続けてしまうだろうから。
「荷物みてようか、先に行っておいでよ。」
「誰も何も盗りませんよ。一緒に行きましょう?」
茨くんは………何だかテンションが高いな。合わせたほうがいいのだろうか。
『うん!そうだね!!はやく行こう行こう!!』
と、無邪気に言う自分を想像したがすぐにやめた。自分でやっといてあれだが、
誰だこいつは。
「あんずさん、甘いものは何が好きですか?」
「…………ぇ…………………」
「リンツァートルテなんて素朴で良いですよね、チョコレートがお好きならこちらのザッハトルテがお勧めですよ!」
「………どうも……あの……」
「あ、フルーツタルト!良いですねえ、健康的ですし果物は原価が高いからこういったスイーツバイキングで食べるのはお得なんですよ!」
「ほへ…」
「ババロアもあります!!品揃えが素晴らしい!!!」
…………私が喋らなくても何とかなるな。ほへってとぼけたこと言っても何にもつっこまれなかったし……。
ていうか詳しいなあ。何でこんなにケーキについてしってんのかなあ………。
ていうかホイホイと私の皿にもケーキ入れるのやめてほしい……。あ、今度はゼリーが入った。何これ、七色ゼリー……!?美味しくなさそう……。