第55章 碧の空を見上げてみたり 乱凪沙
何てことに気づいたあとに、私は家を飛び出していた。
『会いたいです』
さっきの電話、本当に馬鹿みたい。もしもし、も言わないで私何をほざいてたんだろう?
『さっきは、ごめんなさい』
愚かすぎて、クズで。それでも変に執着する。最悪じゃないか。
『………わかった』
なのに。
『………すぐ、引き返すから。』
馬鹿に馬鹿を返さないで。
君まで愚かなことをする必要ないじゃない。
『ありがとう』
何でお礼なんて言うの。私だ、それは私のセリフだ。
私と君は確かに血が繋がっていない。でも、兄弟だった。どっちがお兄ちゃんでお姉ちゃんでとかそんなのどうでもいい。
私達は兄弟で、同じ父に育てられて、お互いに支えられてきた。
「凪沙………ッ!!!」
あぁ、そうだ。あなたの名前。凪沙。冗談めかして凪沙ちゃんなんて呼んだら怒ったあなたの名前。
お願い。
お願い凪沙。
もう一度、私を好きって言って。私もちゃんとあなたに伝えるから。
話せるようになってんでしょ。私を置いて、色んな人と関わって、言葉を知ったんでしょ。心はわからなくても、わかろうとしてるんでしょ。
恋がわからなくても、私が好きだってわかったんでしょ。
あなた賢いじゃない。ずっと、ずっとそうだった。歌も躍りも上手だった。
何にもできない私とは違う。
あなたと私は違う。
父さん、何で私と凪沙を会わせたの?凪沙を一人にするのが辛かった?孤児の私を哀れんだ?何の取り柄もない馬鹿な少女が面白かった?
私は一生父さんを許せない。でも感謝はしている。あなたが私にくれたものは確かに愛だった。
凪沙も、それはわかってる。
「…………あんずさん」
駅まで続く、道の途中。
さっき君が私に想いを伝えてくれた場所。
どこにでもあるような、普通の公園。
あぁ、それだけだ。
それだけで良かった。
私は君とこうやって、話せることが嬉しかった。
「凪沙……………さん……」
ポロリと涙がこぼれた。
誰も拭わないそれは、静かに垂れて地面を濡らした。