第55章 碧の空を見上げてみたり 乱凪沙
色々考えるから疲れるんだ。きっと、寝たら元通りになる。過去に囚われるのはあまり好きではない
なのに。
凪沙がいる限り。
私は、前に進めない。
ズルズルと確実に何かが私を引っ張っている。凪沙の方へ……父さんの方へ。
あ、
『よだかの星』
小さい頃に好きだった本。
よだかは醜い鳥だった。それなのに、名前に“たか”があるから………。同じ仲間と皆に見られたくなかった本物の鷹がよだかを嫌っていた。
『そうです。これがよだかの最後でした』
よだかは………そうだ、星座に話しかけて自分の居場所を探したんだ。ちんぷんかんぷんなことだけど、フィクションなんてそんなものだ。
『東の白いお星さま、どうか私をあなたのところへつれていってください』
誰もよだかを受け入れなかった。
悲しいお話しだった。それでも……。最後には、胸がスッとするような結末が待っていた。皆意味がわからない話だと言っていたが、私は大好きだ。
凪沙は字が読めなかったから、私が読んであげた。
『す……す、すす………す、好き、よ……よだ……か、な……ぎ……ぎさ、好…き、…き』
ろくに言葉も話せないくせに、彼はそう言った。
アイドルになるために育てられた凪沙とは違って、私は言葉を教えてもらっていた。
将来、二人で支え合えるようにと晩年の父さんは言っていた。
でも。
私が支えなくたって、もう凪沙には仲間がいる。
よだかの星の物語も、凪沙と過ごした時間も。私の記憶にはあまり残っていない。
私が覚えているのは、よだかの星を二人で何回も読んだこと。誰も理解してくれないあの物語を、凪沙は理解してくれたこと。
言葉を知らない彼だから、きっと物語の意味もわかっていないことくらい知っていた。
目の前にいた自分より小さな女の子が一生懸命読み聞かせてくれたことに喜んだのか………。
何にせよ、私は嬉しかった。