第55章 碧の空を見上げてみたり 乱凪沙
「では的確にこうなるに至った経緯を含め洗いざらい話してもらいましょう。私がまとめあげます。書類仕事は訳あって得意ですので。」
「…………わかった、頼んだよ。」
いつも持ち歩いている手帳をとりだし、とりあえずtrickstarの子達に『私用で遅れるが必ず行く。先に始めておいてほしい。』と連絡をいれておいた。
学院で集まって、ちょっと大きなレッスン室を貸しきって……氷鷹くんが料理買ってきてくれたりしてるって予定になってたんだけどな…私も張り切ってアップルパイとか焼いたんだけどこりゃしばらくは行けないぞ。
「…………まず、あんずさんが可愛い」
「……容姿には執着がないのですが。」
「…………そういう正直な所が好きだよ。」
私は盛大に首を捻った。あぁそうですか、としか言いようがない。
「…………最近、あなたのことばかり考えてボーッとしてたら茨に心配されたんだ。相談したら、それは恋だと言われてしまってね。」
「えぇ……それ七種くんが嘘ついたんじゃないですか?」
「…………うーん、そうなのかな?でも茨は嘘じゃないって言ってたよ?」
「そりゃそうでしょうよ…」
「…………あ、言葉遣いが荒くなった。でも好き。」
「あんたそういう感情分かんないんじゃないの…?」
「…………うーん、でも好きだし……。」
………………とりあえず言っておくが私は彼にそういった感情は一切ない。
彼は覚えていないのだが、私は無駄におぼえている。
父に寵愛を受けしばらく一緒に育った。が、私は隠されすぎた。
誰にも見つけられず、父が死んでからかなり後………凪沙さんが巴さんの所で幸せに育っていた時にようやく発見されたのだ。
『凪沙ちゃんのお嫁さんになるーーーっ!!』とかほざいて抱きついたらうざったそうにしてたくせに今更かよという感情はある。
身勝手だろうか?
でもね、覚えてるんだよ。
(………忘れたくせに)
私だけ置いていってしまった、あなたを未だに恨んでしまう。
だから響かない。
ようやく恋だのなんだの自覚するようになったのは喜ばしいけれど、私には皮肉や嫌味でしかない。