第54章 自己犠牲は美しい、そして 葵兄弟
「もう、ほっといてくれよ」
ヒロは自嘲気味に笑い、俯いた。
「お前だって俺がいない方が良いんだろ」
「そんなことッ」
「だって俺と一緒にいると、お前まで悪く言われるのに……」
声を荒げることもなく静かにぼやく。
「……………もう…わかんねぇよ」
ひなたくんが、かける言葉も見つからないのか珍しく静かだった。でも私は黙っているわけにはいかなかった。
迷いもなくそのまま弟に近寄り
そのまま顔に平手打ちをくらわせた。
その渇いた音に、ひなたくんが悲鳴をあげる。ヒロはポカンとして赤くなった頬を抑えて怒りもせずに私に目を向ける。
「私は!!あんたがいたから胸を張っていられたのにッ!!!!」
怒鳴る私を相変わらずポカンとして見続けている。いったいこの姉は何が言いたいのかと必死に考えているようだ。
「誰かに嫌なことを言われても!!あんたが側にいてくれたから!!双子でいられたから乗り越えてこれたの!!!」
ヒロは目を見開いた。
双子というのは、私達の中でデメリットでしかなかったわけじゃない。
私が辛い思いをすれば、ヒロも辛い思いをしていたんだ。持っている顔も声も身長も何もかもが違っても、共有しているものは同じだ。
それが、二卵性の双子なんじゃないか。
「それをあんたが否定しないで!!」
怒鳴るだけ怒鳴ったあとも、ヒロは口を開かなかった。
だから代わりに私が喋った。
「素直に言えば……最近はヒロが何考えてるかわからないから、怖いって思ってた。お前と俺は違うって言われる度に嫌だった。」
「それは………ッ」
「……何か、あったんでしょ。」
私が言うとヒロは黙って頷いた。色が変わるほど下唇を噛み締めて、何かを圧し殺したように。
「うん、わかってる。それじゃあ話してくれるまで待ってる。」
「あんず……」
「ヒロが辛いなら私も辛い………ずっとそうだったじゃない。分け合おうよ、双子なんだから。」
私が笑ってそう言うとヒロは空笑いを見せた。
「ほんっと………馬鹿姉貴」
その声音に、懐かしさが見えてきた。
あぁやっぱり。
私の、弟だ。