第54章 自己犠牲は美しい、そして 葵兄弟
そんな騒動があった次の日、ヒロはちゃんと登校した。隣のクラスでは軽くお祭りみたいになっていて久しぶりのヒロを歓迎していた。
「ヒロさん、よかったですね」
そのことを二人のレッスン時に報告するとゆうたくんがそう言ってくれた。
「まだ何があったのか教えてくれないんだけど………今は信じて待つよ。」
「それが良いです。ヒロさんの相談相手には俺がいますからね!」
ゆうたくんがえっへんと胸を張る。少し驚いたが、ヒロは彼に全てを話していたらしい。よって不登校の理由も知っていたのだが彼は知らんぷりをしていてくれたのだ。
ヒロも私も、良い後輩に恵まれた。
「ま、お兄ちゃんお姉ちゃん通し俺たちは仲良くしようね!!」
蚊帳の外が嫌だったのかひなたくんが突然割って入ってきた。
それを見てゆうたくんが呆れたように笑った。
「心配しなくても、俺は盗ったりしないんだけどなぁ……」
意味深にそう呟いたが慌てて取り繕うように口を閉じた。いったい何だったんだろう?
「でも何て言うか、ほんっと双子って難儀だよね。自分に一番近しい存在がいるってのは嬉しいけど。」
「…否定できないかな。でも………。」
ひなたくんの言うことはきっと正しい。それでも、そんなことないって言い続けないといけない。
私達は、一生血が繋がっただけの赤の他人なのだから。
「消えちゃえば良いのになんて思わないかな。自己犠牲は美しいなんて言うけどさ。」
「確かに。俺もゆうたくんがいないと寂しいな~!」
ひなたくんはじゃれて弟に悪がらみする。
私はその微笑ましい光景につい吹き出した。
「やっぱり、双子っていいな。」
双子はどうしても比べられる。似てようが似てまいが、何かを影で言われる。
ヒロの自己犠牲は美しい。
私を……相手を思いやるためのものだから。
それでも、やっぱり私からしたら。
美しく、そして限りなく残酷なもの。
ヒロの本心はまだまだわからないけれど……。
今は、ただそう思う。