第54章 自己犠牲は美しい、そして 葵兄弟
「………羨ましいだなんて、そんな」
私は首を横に振った。
胸が締め付けられるように苦しくて、そこを制服の上からギュッと掴んだ。
「言葉が足りなかった。私達は双子とか家族とかそんなんじゃなくって、一人の人間だったのに。周りの人達は、二人で一つじゃないとおかしいって。だから、私達は二人で一つであろうとした、でもヒロは…。」
私の言葉の途中で、ひなたくんが遮るように優しく私の頭を撫でた。
「うん、わかってる」
その声は静かな暗闇に子守唄のように響いた。
「だからはやくヒロさんを探そう?」
「でも、どうしたらいいのか…私もうわかんなくて」
頭を抑えて項垂れる。脳内が考えれば考えるほど真っ白になっていく。ヒロとの思い出まで消えていく。
思えば二人で笑いあって遊ぶとか、なかったかも。
「わかる」
ひなたくんは私の頭から手を離して、私の手をしっかりと握って前へ進んだ。
「ひなたくッ「ヒロさんに会いたいんでしょ?」」
彼は振り替えってにっと笑った。私はぱちくりと瞬きを繰り返したが、黙って頷いた。
「じゃあ会いに行こうよ!」
ひなたくんは速い。私の歩幅に会わせるつもりなんてないらしい。
会いに行くにしても、どこにいるのかなんて聞いたことない。でもわかる。ひなたくんもわかってる。
双子なんて、そんなもの。
私のいない時間に、ヒロはそこにいる。
そこについたとき、ひなたくんは私に先を譲った。2-Bの教室。私の隣のクラス。
勇気を出してその扉を開ける。
「………………………………馬鹿姉貴」
静かに、懐かしい声がした。消えかけた思い出に、色が塗られた。
あぁ、そうだ。私の弟。
「嘘なんだよ、学校やめるなんて。」
ヒロは悲しげに笑う。