第54章 自己犠牲は美しい、そして 葵兄弟
私のいないところに、ヒロはいる。
私が家にいるなら、ヒロはそこにいるんだ。
「ついた、学院………ッ!!」
肩で息をして、校門の前に立つ。もちろん開いているはずもなく……正面から入る勇気もなく。
駐輪場へまわり、フェンスをよじ登って生い茂る植木の上に飛び降りた。枝がチクチクと刺さり、擦り傷を作った。
(私の、いない場所…!!)
植木から這い出す。醜く穴が開いたが、バレてしまわないだろうか。
「あんずさん!」
駐輪場から出るときに、急に声をかけられた。
「ひなたくん!?」
「シーッ!!その声はヤバイです!!」
いや、君もヤバイ声出してるけど……と言う前に、さっさと校舎内に連れていかれた。
「俺とゆうたくんは届け出をだしたから、今日はここに泊まっていけるんだけど……あんずさんは違うでしょ?」
確かに……気づかなかったけど、彼はパジャマなのかだぼだぼのスウェットを着ている。
「じゃあさっきの電話……」
「そ、学校から。ヒロさんが学院に入ってくるのが見えたから。」
「…………ごめんね、夜なのに」
「いーっていーって。」
ひなたくんは真夜中の学校でゲラゲラと笑う。
「この状況、すっっっごく俺得だから。」
「………………………………?」
「ふふっ、いつかわかってね?」
口に人差し指を添えて華麗にウインク。あぁ、さすがアイドルだなぁ。真夜中でもこんなことができるんだ。
言ってることは全然わかんないけど。
「………あと、ちょっとあんずさん達のこと勘違いしてた。」
「勘違い?」
「悩み事なんてないんだろうなって。俺とゆうたくんはずっと一緒だからさ………二人みたいに距離があったら、上手くやっていけるのかなって。正直羨ましかったよ。」
ひなたくんは微笑んだ。その笑顔に眠った感情は、私にはわからない。
この双子が衝突するのは、まだ少し先の話かもしれない。