第54章 自己犠牲は美しい、そして 葵兄弟
私達は全く似てない、二卵性の双子。
奇跡的に二人で生き残って、この世に産声を轟かせた。
全く似ていない片割れに戸惑うことがあった。絵本に出てくる双子は写し鏡のようにそっくりで、仲良しで、いつも同じ服を着ていた。
私達は何度も言い合った。
写し鏡じゃないのなら、お前はいったい誰なんだと。
不気味さがあった。周囲は私達を二人で一つで扱うのに、私達はあまりにも一人で一つだった。
周囲の目に応えて、双子らしくあろうとした。でも知れば知るほどお互いの距離が遠い。
___俺はお前とは違う
ヒロは、気づいていた。私だって気づいていた。
双子なんて………………血の繋がった赤の他人だ。家族なんてそれだけだ。一卵性でも二卵性でも、写し鏡でも虚像でも。
誰だって自分以外は他人だ。個々の思考が独立して共有できない得たいの知れない何かの一つにすぎない。
なのに噛み合わない。お互い気づいた頃には遅かった。歪に作り上げてきた写し鏡の虚像は、未だに私達の目の前にあった。
ヒロは私。私はヒロ。
戸惑っていた。一つ屋根の下に住み着く赤の他人とどう接したらいいのか、わからなかった。
『何でこんな思いしなくちゃいけないんだ』
ある日、ヒロが言った。まるでその言葉が雨を呼ぶように、空が泣き出した。
『……………………鏡が、なかったら、良かった……………ッ』
途切れ途切れの苦しみから産み出された言葉が胸を刺した。
私はあんたじゃない。
でも
あんたを理解することはできる。わかってあげられる。
だから、私は今走っている。
ヒロを探すために、日付の変わった夜の町を走っている。
いつもどこに行ってるかなんて知らない。教えてもらってない。
でも、わかる。
ヒロと私は逆さあわせの鏡。私とあんたは違う。だから、私が行かない場所に、ヒロはいるんだ。