第54章 自己犠牲は美しい、そして 葵兄弟
私は産まれた。その少しあとにヒロは産まれた。日付をまたいだけれど、私達は双子。
小さい頃から噛み合ったことがない。好きなもの、嫌いなもの、読む絵本、話す内容、利き手、ご飯を食べる順番………………何もかもがアイツと違った。
違って当然だった。そもそも男の子と女の子だもん。
それでもヒロは、世界で、たった一人の、私の弟。
「……………わかって、あげたいの…ッ……誰よりも………、…アイツのこと…………理解したかった…ッ……!」
私は、ヒロの、世界で、たった一人の、姉。
____俺とお前は違う
ヒロの口癖のような言葉が頭をよぎる。
わかってるよ………………。
とっく昔に、わかってるんだよ……!!
わかってるよそんなこと!いちいち言わないでよ!!それでも理解してあげたい!!!私と違うあんたを、私は理解してあげたい!!!
「どんどんヒロが遠くなっちゃう…………ッ!!!……こっち見てくれないと、わかんない……!!」
だから、私を見て
あんたと一緒にお腹の中にいたんだよ!お互い、奇跡的に生き残ったんじゃない!!
『…………………………………………………あんずさん』
発狂しつつある私の名前を、ひなたくんが優しく呼んでくれた。
『ヒロさんは優しい人だ。』
「………………え…?」
『こんな俺達に優しいあんずさんと同じだよ。余計なお世話かもしれないけど…………。』
ひなたくんの声はやけに私を落ち着かせた。
『二人は、端から見たらそっくりな双子だよ。』
ポロッと目から涙が落ちた。小さい頃から似てないって、似なさすぎて変って、言われてきたのに。
『ただ、まだ信じられてないだけ。お互いに…あまりにも自分と違う鏡に写る虚像を見て、戸惑ってるだけ。』
___俺はお前とは違う
ヒロの言葉の真意を、たった今ひなたくんは教えてくれた。意味深な言葉でも、私にはわかった。
あぁ、私ってば情けない。
そう思うと涙はとたんに引っ込んだ。
「………今からだと、遅いのかな」
『早すぎるくらいじゃない?人生100年!あと80年くらい余ってるでしょ?』
「………………………そうだね。ほんと、早すぎた。」
あぁ馬鹿馬鹿しい。
わかるはずなかったんだ。
ヒロは、私をとっくに見てたのに。