第2章 夢の話し 遊木真
「あ、好海だ」
スウィーツパーティーと聞いたときから何となく予想していた。エプロンをつけたパティシエ担当の朔間くんが珍しく上機嫌でやって来た。
私は会長に頼まれパーティーで使うお皿を紅茶部の部室に取りに来ていた。
「好海、昨日はありがとね。俺の抱き枕になってくれて。」
「いや…散歩してたら勝手に後ろから抱きつかれて寝てたときはすんごい困ったけどね~?ギューーッてしてくるからチョ~痛かったし~…」
スウィーツ作りで忙しいはずの朔間くんは厨房にいなくて良いのだろうか。当日を迎えた今日、多忙を、極めるはずだが…
朔間くんの抱き枕になった五日前に真くんとの例の事件があったので、本当にやめてほしかったのだが…まぁバレなかったから良しとしてるけど~。
「ねぇ、もう一回抱き枕になってよ。」
「何言い出すの~?チョ~嫌…ってキャッ!」
「ふふっ。可愛い声出たね。」
朔間くんがいつの間にか後ろからホールドしてきた。ちょっと待って昨日の悪夢再来…!?
「ねぇ、俺ってこの時間帯はあんま元気ないんだよね~。だから、好海の血をちょうだい」
「ま、またそれ?駄目。絶対あげない!」
「だーめ。くれるまではなさない。」
………何かデジャヴ。ていうか完璧朔間くんのペースだ…!
「駄目だよ。朔間くんもお仕事あるんでしょ~?」
「今んとこもう終わっちゃったんだよね~。何もパティシエ担当は俺だけじゃないし。さ、疲れた俺にご褒美の好海の血をちょうだい。」
「いーやーだー。チョ~嫌だ~……キャアッ…!」
いきなり朔間くんが首に顔を埋めてきた。こしょばくてまた変な声が出た。
「ふふ。また可愛い声でた。正直、今俺のこと怖いでしょ?心臓の音速くなってるよ?」
朔間くんは時折セクハラしてきては私にちょっかいをかけてくる。それが本気なのかどうか分からないのが凄く嫌だった。
「ちょっと、喋らないでこしょばい!ていうかセクハラ!」
「俺と好海の仲でしょ~?抱き枕は大人しく抱きしめられてなって」
「私は抱き枕じゃない!ヒ、ヒャア!ちょっと、耳に息を吹きかけないでよ!」
「顔真っ赤にしちゃって~。」
「真っ赤にもなるよ!私、会長にお皿運ぶように頼まれてるの!」
「ふふ、俺はそれを手伝いに来たんだよ~。だから大丈夫。怒られないよ」