第52章
イルカの水槽を前に目を輝かせる斑さん。
そういえば、イルカの飼育員的なこともやってたかなあ高校の時。
「……あのイルカ、親子で」
大きなイルカと小さなイルカが寄り添い泳ぐのを見たとき、耳鳴りがした。
それはもはや痛みとなり、私は思考を手放した。なぜか目の前に見えている水槽が消え、とある映像が流れ出した。
『言いたいことがあります』
二人きりの懐かしい講堂。
肩で息をする斑さん、無表情に立ち尽くす私。
『__たいです』
ノイズがかかって聞こえない。
『さっきの__、__ても良いですか?』
斑さんは悲しそうな表情を浮かべた。
私の顔は分からない。
いったい、どんな顔をして………
何を言ったというのか
「あんずさんッ!!!」
斑さんの怒声で我に帰る。
周りの人が一瞬こちらを見て、すぐ水槽に視線を戻した。
「何ですか…大きな声出して。」
「何でって………どんなに呼んでも返事をしてくれなかったからだなあ!」
珍しく怒っていた。
(さっきのはいったい………)
「…ッ…!?」
突然はっとした斑さんが弾かれたように服のポケットに手を入れ、ハンカチを私に差し出す。
「あんずさん……何で泣いてるんだ……?」
斑さんに言われてたから気づいた。
私は泣いていた。
涙が止まらなかった。
ただ、無性に悲しかった。
そんな私の横を、親子のイルカが泳いでいった。