第51章 忘れてしまえ 蓮巳敬人
「それじゃあ、俺は仕事に戻…………」
立ち上がり、この場を去ろうとする先輩の服の袖を引っ張った。
「………何だ?」
「………………………多分、上から…連絡が…」
私は七種くんや乱さんに言われたことを伝えていなかったと、呼び止めたのだ。
「上…?英智か。」
「……もっと上…」
「もっと上?」
「乱さんと七種くんから………」
二人の名前を出し、先輩は納得したようだ。……どうやら七種くんはかなり出世したらしい。私達同期の中でも元々抜きん出ていたけれど。
「上から連絡が来るのか?」
「…………来ます…」
「おい、なぜ泣きそうな顔をしているんだ。酒のせいか?」
違う。
それは違う。
「何も聞かないでください。………あなた達の所へは行かないと、応答してほしいんです。」
「………。」
きっとこんな返事をしたら然るべき処分が待っているだろう。
私の行動は国を守るエージェント機関への反逆も同じだ。
それでも、私は……………。
「お前の出世に関する話か」
「………え?」
突然、真意を見抜かれ唖然とした。先輩はため息をついた。この先全ての幸せを逃がす勢いで。
「え?ではない。…………元々、英智にそのような通告は何回も来ている。…軽くあしらっていたようだがな。」
「でも、そんなこと全然…」
「隠していたからな。英智は優秀な部下であるお前を乱に取られるつもりなど毛頭ないから安心しろと言ってきた。大方、直接来いと言われたのだろうが………。
行く必要などない。ここにいろ。貴様を生かせる適材適所はここだ。」
お酒のせいだろうか。ろくに頭が回らない。
私は感情の赴くまま行動した。その結果先輩に抱きついていた。
「…………良かったです」
「あぁ、隠していてすまなかったな。」
「……………あと寂しかったです」
「…寂しい?」
先輩はポンポン、と私の頭を撫でながらそう聞いた。
「女の人に囲まれて全然相手してくれなかった。」
「………お前は七種と親しげに話していただろう。」
むくれる私にお互い様だ、とコツンと額を合わせた。