第51章 忘れてしまえ 蓮巳敬人
「……でも悪かったな。酒のせいで気分が悪いだろう。」
先輩は小さい子の相手でもするように優しく笑った。珍しい笑顔だ。
「…うーん、そう言われれば頭痛いかな…?」
「ふん、明日になると元気になるさ。薬も用意してくれているらしいしな。」
私はレアすぎる優しい先輩と離れたくなくて、ずっとくっついていたかった。
先輩も離れろとは言わないのでそのまま甘えていた。
「………あんず、ここに何がある?」
急に先輩が尋ねてきた。私は赤くほてった顔をゆっくり動かし、先輩が言うここ…………握られた手を見た。
「…………匂いからして火薬………弾ですか?」
「…匂いでわかるのか。」
「え?わかりませんか……?」
先輩は普通はわからないんだと首を振る。へぇ、皆不便な生活送ってるんだね。(←上から目線すぎる)
「一発の弾丸がある」
先輩は手を開いた。
「それだけだ」
先輩は私から離れた。私は意味もわからず弾丸を受け取り………その日はとりあえず枕元に置いて眠った。
……これはいったい…?
その後、深夜にとある二人が話し込んでいた。
「敬人、あれ渡したのかい?」
「ああ、渡した。」
「ふふふ、君もとうとう結婚かあ…」
「………返事をもらっていない。渡しただけだ。」
「あの子なら最悪気づかないってこともあるよ?」
「かもな」
「でも、それに文字を書いて伝えたんでしょう?どうして?」
「…………我々エージェントは武器である弾丸を粗末には扱わない。あんずのような優秀な者は特に。」
「なるほどね………。なら、確実に気づくかな。」
「…………そう思う」
「うんうん、幸せそうだね。お酒でも奢ろうか?」
「ならカクテルを頼む。」
「ふうん………何にする?」
「……………ハーベイウォールバンガー」
「うわ、強いのいくね…」
「まあたまには良いだろう?」
眠ったあんずが弾丸に彫られた文字に気づくまで、あと数時間。
【_______一生俺から離れるな】
「さてさて、どうなることやら。」
酔いつぶれた幼なじみの寝顔を見ながら、英智は不適な笑みを浮かべた。