第51章 忘れてしまえ 蓮巳敬人
「良いのですか?あんなことになってますけど。」
七種くんは先輩を指差す。
「いや………別に…。良いんじゃない?」
「おや、どこぞの女にとられてしまっても知りませんの?」
「先輩がいたい人といれば良いんじゃないかな~」
「ふうん…………そうなれば俺のことも少しは考えてもらえるんでしょうかね。」
「あっはは、無理だわ~。だってそうなったら…さすがに……」
私はソッと目を伏せた。女に囲まれる先輩を視界からはずした。
「…………寂しいもん……」
誰にも聞こえない声で言ったつもりが、近くにいる七種くんは聞こえたらしい。さすがに目を丸くしておどろいている
「…そんな顔できたんですね。」
「何よ、悪い?」
目尻にたまった涙をグイッと拭う。
「いいえ。でもなんか俺が泣かしたみたいになってません?」
「ざまぁみろ」
「聞かなかったことにしましょう」
そんな風に茶々を入れあっていると、渡されたグラスは空になった。
「………………………ん……?」
そこで少し違和感に気づいた。何だか体がフワフワする………。
「おや、どうしました?」
「七…種…………く…」
目の前の彼がグラリと歪んだ。目の焦点が合わない。七種くんが五人ぐらい見える……。
彼に倒れそうになったとき、力強い腕で支えられた。
「……せ…ん、…ぱい……?」
囲まれていた蓮巳先輩だ。どうやらようやく脱け出せたらしい。
「貴様………ッ!!何を飲ませた…!!!」
「何ってカクテルですよ。ハーベイウォールバンガー。」
「………ッレディー・キラーか!!?」
うん、すっごい、すっごいかっこいい雰囲気だし片仮名ばっかでかっこいいんだけど。
………何言ってるの?
理解してないの私だけ?
何て?ハーベイ……ウォー……ハンガー?
レディーキラー?何、誰か女の人が殺されたの??
………………え、私死ぬの?毒だったの?ハーベイ…何たらは毒なの??でも七種くんカクテルって言ったよね?え?嘘?嘘だったの??