第51章 忘れてしまえ 蓮巳敬人
「なぜわかった?」
案外素直に白状した。理由に答える義理はない。私はそのまま引き金を握る指に力をいれた。
が、男もやられっぱなしではない。
平手で私の拳銃を叩き落とし、スーツの中から拳銃を取り出した。
私は足でそれを蹴っ飛ばし、その拳銃を蹴った足でそのまま男の頭を蹴った。
脳が揺れたらしく、男は膝をついた。私は拳銃を二つ拾い上げ、片方から弾を抜いた。
名簿に名前が載ってなかったこと。見たことのない顔だったこと。香水をつけて体臭を隠していたこと、歩き方が不自然なくらい静かだったこと。(見張りで周囲を警戒している私がぶつかるまで存在に気づかなかったくらい)
言い出せばきりがなかった。この男、暗殺者としては優秀ではない。ホステスの方が向いているかもしれない。
「お見事」
突然、静かな拍手が起こった。入り口付近にいたのは………ポンパドール?というのか珍しい髪型の男だった。恐ろしいほど顔が整っていた。
「………………あなたは」
しかし、私はその人を知っていた。慌てて私は最敬礼で頭を下げた。
乱凪沙。この国のエージェント機関のトップに君臨する男だ。先輩とうちのオフィスのボスと同期ということで話は聞いたことがある。
「…………うん、ごめんね驚かせて。………私、このパーティーの主催者と知り合いだから借りてきたんだ。」
何を、と思って顔だけあげると彼の手には鍵が握られていた。なるほど、それで私が閉めた鍵を難なく開けたのか。
「…………茨から、優秀な子がいるって聞いたから。」
「茨……七種くんが………?」
「はい!自分です!!」
いきなり元気な声が轟いた。タイミングを図ったように扉から入ってきたのは七種くん。満面の笑みだった。
「ど、どうして……」
「どうして?あんずさん、あなたはその気になれば誰よりも優秀なエージェントになれるんですよ。今までの経歴を洗いざらい調べましたところ、やはりあなたは……
他の人に自分の手柄を与えていたようですね。」
私はギクッとした。
…………七種くん…どこまで知ってるんだろう…