第51章 忘れてしまえ 蓮巳敬人
グラスを回収しに来たウエイトレスにグラスを返し、私達は再び遠目で依頼人を見張っていた。
しかし、依頼人の奥様が突然旦那と離れだした。彼女は嬉しそうに他の女性へ声をかけに行った。知り合いらしい。話し込み出した。先輩にチラリと視線を投げると黙って頷かれた。
言葉にしないあたり大分ご機嫌斜めだ。
私は黙ってその場を離れ、奥様の近くへ移動した。それだけでは不自然なので料理でもとって誤魔化そうとしたとき。
「あ、すみません。」
「………………いえ、こちらこそ。」
若い男とぶつかった。
それと同時に私は頭をフルに回転させた。
「あの、もしよろしければお名前を伺っても?」
試しに聞いてみた。私はこの会場にいる人はほぼ一度は顔を見たことがある有名人であったと事前に名簿を見て記憶している。
なのに、この目の前の男は見たことがなかった。
突然の問いに男は気さくに名乗った。まあこの場所で逆ナンなんてよくあることだろうけど。ていうか廻りに逆ナンて思われてんのかなこれ…。
皆さーん!こんな人タイプじゃないですよう!!って叫びたいな。やたら胸元開いてるし、スーツだって香水の匂いしかしないし最悪。
(とりあえず…………名簿にのってなかった名前だわ。)
その後、奥様の見張りもしつつ適当にその男と世間話をしていた。
「あなたのお連れ様はどちらに?」
さりげなくこう聞いたところで、男にコッソリ耳打ちされた。
「少しぬけませんか?」
願ったり叶ったり。
私はにっこり微笑んだ。
会場にある休憩室に入り、気づかれないよう鍵を閉めた。
そして………。
ジャキッ
拳銃をとりだし男に突きつけた。
「な………ッ!!!」
「あなた暗殺者ね、大人しくしなさい。」
男は黙って腕をあげた。