第51章 忘れてしまえ 蓮巳敬人
「アホだなー、お前。」
目が覚めたら佐賀美先生から罵倒の一言が飛んで来た。起き上がって一発殴ろうとしたが、動かなかった。
真っ白なベッドに寝かせられた私の腕から伸びる管が……椅子に座る敬人先輩とつながっていたからだ。
「今に始まったことではありませんよ。」
先輩はふん、と鼻を鳴らした。
「良かったな、優しい彼氏さんが血を分けてくれて。」
「佐賀美ぶっとばす」
「おいもう少しオブラートに包んでくれ流石に傷つく」
…地味に暴露されたが、私と先輩は付き合っている。
が、隠しているつもりはなくこの仕事場にいる全員が知っていることだ。
「うし、もういいか。」
私達から管が外される。血を抜いた先輩は少し青い顔で頭を抱えていた。
もちろん、私は元気になった。
「足の怪我は治療しといたし、もう動けるぞ。二人とも調子が戻ればボスんとこ行ってこい。呼ばれてたぞ。」
「はーい、あざます先生。」
佐賀美先生はそう言い残し、医務室を出ていった。いやどこに行くんだナチュラルにサボるな。
「全く………………肝が冷えた。」
「いやあそれほどでも。」
「どこをどうとらえて褒められたと思ったんだ?…それよりはやく行くぞ。ボス………英智が待っている。」
先輩は立ち上がってこちらに背を向け、何かを投げた。それは私のスーツだった。患者用の病院服を着ていたため、着替えなくてはならないのだ。
とりあえずさっさと着替え、ボスの元へ行った。
「ハロー、ボス元気?」
「うん、今日は特別元気だよ。ありがとうあんずちゃん。」
「同級生か貴様ら……」
蓮巳先輩はため息をついた。もしこの瞬間幸せが去っていくなら、この人に未来はないだろう。
「それより大丈夫だったかい?怪我したとか聞いたけど。」
「大丈夫でーす。それより、ご用件は?」
私が尋ねると、ボス……もとい英智さんはにこやかに笑った。
彼がボスになる前は先輩と同じ部署だったので、先輩経由で仲良くしていた。
面識はあるが、仕事ではあまり好きになれない人間だった。
プライベートはめっちゃ気さくだけど、仕事になると人が変わるんだよな……この人。