第51章 忘れてしまえ 蓮巳敬人
____一発の弾丸がある。
それだけだ______
「起きろ」
バン!と私の机が叩かれた。
突っ伏していた私はそのまま声の主を見上げた。
「おはよ……ござっ……す」
「起きろと言っているんだ」
もう一発机が叩かれた。あの力で頭殴られる前に机から起き上がった。
「勘弁してください……昨日夜の四時に帰ってきて寝てないんです、グゥ…」
「……俺はここで寝るなと言ってるんだ。」
眼鏡のフレームを押し上げ、蓮巳先輩はそう呟いた。アタシはキョロキョロと周りを見渡すと、困った顔の真緒くんが見えた。
…………ん?蓮巳先輩と真緒くんがいるってことは……。
「あ、部署間違えた…………スゥスゥ…」
「………駄目だな、これは」
蓮巳先輩がため息をついた。
私達はお国のために働くエージェント。ここはその本拠地である。
ちなみに私が寝てたのははエージェントの中でも位の高い優秀な人達の部署のオフィスの真緒くんの机である。
私が所属している部署は特に位も高くない、外に行って任務をこなす仕事を受け持っている。
昨日、夜中の四時に仕事を終え報告しようとオフィスに寄ったのだが部署を間違えた上に寝ていたようだ。
「今何時れすか……」
「5時だ。」
「うわ……出勤はや……優秀なエージェントは大変……お疲れ様…で…す」
「アホか、さっさと立て。他人を労っている場合か。」
私は寝ぼけながら立ち上がった。
スーツの黒いズボン、なぜかジャケットがなく上はシャツしか着ていなかった。くそう、どっかに置いてきたな。スーツも馬鹿にならないんだぞ。
「………あぁ、忘れてた。医務室行かなきゃ…」
「は?医務室?」
「ほらここ」
私は太ももを指差した。昨日の任務で撃たれたのだ。
黒いズボンでよくわからないが、確かに血が出ていた。
「貴様……ッ!!眠い眠くない以前に血が足りていないだけじゃないかッ!!!」
「ダイジョブダイジョブ、唾かけて治します」
そこで意識が飛んだ。さすがに限界だったらしい。