第50章 征服欲 鬼龍紅郎
「おい高村、鞄取り返したけど何か二つあって…」
「あ!それだそれ!サンキュー紅郎!!」
アタシは紅郎が持ってた鞄のうちアタシのじゃない方を受け取り、倒れこんでいた男の子の元へ走りよった。
「おい、鞄取り戻せたぞ。薬どれだ。」
「あはは……大丈夫大丈夫。もう発作収まったから。」
男の子は青い顔で笑った。何はともあれ無事なようだ。ホッとした。
その次の瞬間、外からパトカーのサイレンが聞こえてきた。
「っ、ヤバい警察だ!」
紅郎が焦った声を出す。
二人が慌てて外へ向かうなか、アタシは男の子と向かい合っていた。
「…何か、慌ただしくて悪かったな。アンタは警察が何とかすんだろ。あと………ここで見たことなんだけど…」
アタシが口をモゴモゴさせていると、男の子は分かってると頷いた。
「僕、発作で何も見てないよ。」
「そうか。………何の病気か知らねえけど、頑張って治して元気でいろよ。」
お別れの挨拶は苦手だ。それを誤魔化すように、アタシは軽く男の子に頭突きをして鞄に書いてあった名前を口にした。
「じゃあな、エイチ!」
それだけ言い残し、アタシは外で待つ零と紅郎の元へ走って行った。