第50章 征服欲 鬼龍紅郎
奴の警棒が男の子の顔面に落ちる前に、ギリギリで掴んで止めた。
「君………ッ!」
男の子が唖然としていた。
「……へー、手の皮を削いで縄脱けしたのか」
アタシの手の甲の皮はギザギザに剥がれれていた。縄を手の甲に滑らせて縄脱けしたのだが、麻縄は表面がガサガサしているから手の皮が削げたのだ。
足は靴下でガードされたため一応無傷だ。
「やるねぇ、杏里ちゃん」
男は警棒を投げ捨てた。
「いやさぁ、昨日鬼龍って奴をシメようとしたら引き分けになっちまったんだよ。だからもう一回やりあおうと思ってさ。」
「…………アタシらはそのダシってこと?」
「いーや、ちょっと違うね。そっちの坊っちゃんは親から金盗るがために………」
男の言葉が紡がれた。
「杏里ちゃんは俺のモンになってもらうために。」
………ちなみにわかりやすく言うと、俺の女になれ。ということである。
「………………………………………ないわー……………」
怖い怖くない、逆らう逆らわないの問題じゃない。
アタシの心からの一言だった。
当然、男はぶちギレた。
が、手はもう出さないつもりらしい。アタシらに背を向けた。
「いずれ鬼龍が来る。……あと、昨日一緒にいた朔間って奴も来るぜ。招待状を送ったからな。
それに、坊っちゃんの家にも知らせが届いたろうよ。」
男の声は今までで一番低い。
「夜にはここが戦場になる。」
脅しのつもりだろう、男の子は少し怯えているようだった。
しかし、アタシはそうならなかった。アタシは立ち上がり、口角を上げた。無意識だ。上がってしまったのだ。
「ふーん、じゃあアンタの負け確定コースだね。」
アタシの言葉に高校生が全員苛立ちを見せた。
「夜の零と紅郎は世界一怖いよ。あと頭に叩き込みな。アタシのタイプは『二面性のある奴』だよ。アンタみたいなとりあえずチャラチャラしてるのは論外だ。」
アタシはそう言いきった。もはや、それは宣戦布告に近かった。
「さあどうする、夜を待つかい?」
「上等だ……!やってやるよ!!!!」
一気に士気が上がったらしく男達は大声でわめいた。
(良いねぇ、分かりやすくて。)
こんなんじゃ、紅郎には絶対勝てないだろう。