第50章 征服欲 鬼龍紅郎
困った。いやあ困った。
折角ケンカしなかったのに、色々あって昨日より包帯と湿布を右目と両頬に増やしたアタシはため息をついた。
(どこの青春ヤンキー漫画だよ)
髪の毛を染め、腰パンにし、ベルトからチャラチャラした紐を垂らした高校生。
彼らの拠点となる廃工場でアタシは麻縄で手足を縛られ床に転がされていた。
本屋に行って、ヤンキーを題材にした漫画を手にとってほしい。
こんなシーン、一回はあるから。
でも捕まってるのはアタシだけじゃなかった。気弱そうな、少し髪が眺めの……身なりのいいアタシとタメくらいの男の子も転がされていた。
詳しくわからないけど、有名私立中学の制服じゃなかったかな。
遡ること今日の早朝。
アタシは遅刻しないよう、早めに家を出た。
その時、後ろからガツンと殴られ気絶。
目が覚めたのが今だ。
隣の男の子はずっと起きていたのか、その目はしっかりとアタシらを囲んでいる高校生達を睨んでいた。
ふうん、結構肝の座った子だな。
背のわりにヒョロヒョロしてるけど。
「いやぁ、まさか財閥の坊っちゃんまでかっさらえるとはなあッ!!!」
廃工場内に声が響いた。アタシはゲッ、とか何とかとりあえず言葉になってない変な悲鳴をあげた。
昨日、紅郎がケンカしたと言っていたあの不良だ。
それも驚いたが、隣の男の子をアイツは財閥の坊っちゃんと言った。アタシみたいなのはともかく、財閥の坊っちゃん拐ったら警察後とだけではすまされないんじゃ……。
どうやら、この高校生達はあの男の一派らしい。アイツは威張りきってグループの真ん中で仁王立ちしていた。
「よお杏里ちゃん、やっと会えたな。」
「うっ……わ。一生会いたくなかったで~す。」
逆らったらまずいのは重々承知だが、逆らわない理由がアタシにはない。
仁王立ちしていた男はズカズカ歩み寄ってきて、アタシのこめかみに何かを叩きつけた。
あまりの衝撃に頭がガンガンと揺れた。
(…警棒か………?ったく、盗られやがったな間抜けどもが。)
軽く頭を振って衝撃に対応した。別に泣きわめくほどじゃない。
「女の子に何をするんだい!!!」
しかし………隣の坊っちゃんは声をあらげた。
いやそれは不味いでしょ。
こめかみから血が垂れると同時にアタシは咄嗟に縄脱けしていた。