第50章 征服欲 鬼龍紅郎
「お前先に入ってろ。」
「えー?紅郎は?」
「俺は血とってくる。妹がビビるからな。」
「はーい。じゃ、またね零。」
杏里はヒラヒラと手を振って去っていった。
紅郎はついてきていた零に向き合った。そうなるとわかっていたので驚きもせず、零は紅郎の顔を見つめた。
「お前、高村の何なんだよ。」
「言っただろ、俺様はクラスメイトだ。」
「……商店街の奴等が騒いでたんだよ。高村に彼氏が出来たとか何だとか。てめぇのことか?」
零は思わず吹き出した。情報伝達が速いこと速いこと。
「お前はどうよ。」
「あ?」
「俺と杏里が付き合ってて困ることって何だよ?」
紅郎は無意識だったが、動揺していた。体がピクッと動き反応していた。
「………杏里の駄目なところ、お前は分かってんだろ?」
そこに零はつけ込んだ。
「杏里は今の状況を何とも思ってねぇ。親からの虐待も、お前に引き込まれた世界のことも。」
「…………何が言いたいんだ」
紅郎は零を睨む。しかし、真夜中の吸血鬼にそんなものは効果がない。
「お前がやってることは分かるよ。杏里を親から引き離して、晩飯食わせてやって……。お前なりの気遣い、できる精一杯のことだ。」
紅郎は馬鹿にされたように思って、スッと目を細めた。
しかし零は止まらない。
「でもそれは、杏里を自分からはなしたくないってだけだろ。」
「は………?俺は別に…」
「杏里にこの世界を教えたのはお前だ。そして自分が取り仕切ってるあの商店街に毎晩身をおかせた。杏里は自然的にお前からはなれなくなる。」
「違う…」
「違わねえよ。お前は……くだらない欲を出して、杏里の心を征服したいだけだ。」
「違うっつってんだよッ!!!!」
紅郎が耐えきれず大声を出したところで、先に入っていた杏里が玄関のドアを開けて出てきた。大声に反応して、目をパチクリさせている。
「おぉ杏里………どうしたんだ?」
「あ、いや……ちょっと…紅郎、遅いから。」
ただならぬ雰囲気に顔をしかめる彼女を見て、紅郎は平静に戻った。
それから、零とは何も話さず家の中へ入っていった。
「無自覚だったのかよ………ガキだな…。」
零は思いもよらなかった反応に髪をかきむしり、夜闇の中へ消えていった。