第50章 征服欲 鬼龍紅郎
寂れてつぶれた商店街。
そこがアタシの居場所だった。
「おーおー、治安が悪いって噂のトコじゃねえか。」
零は怯えることもなく意気揚々と足を踏み入れた。アタシは軽く頭を抱えた。
商店街の真ん中まで歩いて、置いてある石でできたベンチに適当に座った。
「何だ、暴れねえのか?」
「ケンカには二通りある。売るか買うかだ。」
「ふーん、お前は買う派ってこと?」
「ああそうだ。……つかさ、零。お前…こんな時間ほっつき歩いて家族が心配したりしねえのか?」
あんまりそっちの道を知らない奴に深く教えない方がいいだろう。アタシは慌てて話をそらした。
「友達と飯食ってることになってんだよ。」
「あっそ……」
アタシはそれだけ言って立ち上がった。
どうやら来たようだ。
昨日派手にやったからな………。今夜は大変そうだ。
「よう、クソ女。昨日の分を返しに来たぜ。」
ざっと10人…うわ、昨日の倍か。
「ふーん、面白えじゃん。」
零がベンチから軽く飛んでアタシの横に着地した。
「零…参加したらアンタももれなくこっち側だよ…警察送りになっても知らないよ……?」
「安心しろ、俺様ならそこらへんを上手くやれる。」
「お前、前から思ってたけどアタシよりヤバイよね。」
「ハン、そりゃ光栄だな。」
零は屈強で勇猛果敢すぎた。
せめてビビってくれないかな、この状況に……。
「何だ?彼氏か?」
その言葉、にハッとして首を横にブンブン振った……のだが、
「そーそー、俺達ラブラブだもんなー。」
「~ち、違う…ッ!!こいつはクラスメイトで…!」
「うお、高村の顔が赤くなった……!!マジかー、女らしさの欠片もねえと思ってたらお前…ちゃんと女子だったんだなあ…。」
「て、てめぇらアタシとケンカしに来たんじゃねえの!?何打ち解けてんの!?アタシの緊張返してくんね!?」
「え、ケンカ?俺らは高村の恋ばなを聞きに来ただけだぜ。」
「てめぇらーーーーーーッ!!!!」
真夜中の商店街。煽りとも言える冷やかしを真に受けたアタシによって、薄汚れたコンクリートに今日は10人沈んでいった。
「……お前、男子にからかわれた小学生の女子みたいだぞ」
零の言う通り、全くシリアスなケンカではなかった。