第50章 征服欲 鬼龍紅郎
「……お前、帰らねえの?」
「そっくりそのまま返すよ。」
ガリガリとペンを進めるアタシを零は机に突っ伏したまま見ていた。
窓から夕日のオレンジが差し込む。
ちなみに、アタシらは部活やってない。
「何で帰らねえの?」
「今帰ったら親がいる」
「は?良いじゃねえか、帰って顔見せてやれよ。」
「別に良いよ。体に巻く包帯が増えるだけだ。」
零は何も言わなくなった。
…零は、自称吸血鬼だ。うさんくさいけど太陽に弱いのは本当のようで、まだこの時間は起きてるのが辛いらしい。
授業全部寝てやがったくせに。これでアタシより頭良いんだもんな……。
窓の外にはチラホラ部活を終えて帰る生徒が見えた。チャイムがなる。
下校の時間だ。
外にいる生徒は皆、家に帰ることを心から喜んでいるようだった。アタシとは真逆だ。
「………あれで普通だぜ」
零がいつの間にか起きていて、スクールバックを肩に掛け今にも帰ろうとしていた。
「小4の時、家に帰るのが好きだった。」
シャーペンを筆箱にしまい、ノートをスクールバックに突っ込んだ。
「帰ったら誰もいないからね。周りに気を使う必要なんてない。だから好きだったよ。」
「…………」
先に帰ると思っていたのに、零はアタシと一緒に教室から出た。
「オイ、俺も連れてけよ。」
「は?」
零はパシッ、とアタシの額にデコピンをかました。不意の攻撃に思わず短く悲鳴をあげた。
「お前の夜に一回連れてってくれよ。杏里をそっちに引っ張った………紅郎って奴にも会ってみてえしな。」
「ちょっと零…………ッ!!!」
アタシの言葉を無視して、零はニカッと笑った。
どこか別の場所に行ってはぐらかそうかと思ったが………。
アタシが行く他の場所なんて、この世になかった。