第49章 独占欲 斎宮宗
「………分かっている…立ち直らなければならないことくらい…それでも僕は…………。」
宗は床に散らばった、下手くそに縫い合わされた布を握りしめた。
「………………僕は過去にいるようだ」
アタシは何も言えなかった
「どうもあの時から………舞台から、まだ降りられていないようだ。」
無意識に髪を触っていた。
天祥院がつまみ上げ、口元によせた髪だ。
それでも
アタシはアイツを憎めない。
天祥院の心や考えは…読心術者でもないアタシには分からない。
『…………知ってますか、百人殺さないと…英雄にはなれないんです』
初めて会った日………アイツは、渉くん(そのライブも見に行った)を倒した直後だった。
どうやらアタシが宗と関わりがあるってことは調べあげていたらしい。アタシを見るやいなや声をかけてきたのだ。
『…………僕は…………………99人しか殺せなかった』
あの顔が忘れられない。
『あと1人、それは________』
あなたです、高村さん。
確かに昔のお偉いさんが百人殺せば英雄、と言っていたことは本当だ。
でも何でアタシがアイツの革命の計画に入れられていたのかは分からない。
あの時の言葉は今でも謎のままだ。
過去はともかく、目の前で縮こまった人形師に安易に大丈夫、元気だせ、とか言えるわけがない。
「…………バーカ」
ありきたりな言葉が駄目なら、
アタシの言葉で降ろせばいい。
舞台から引きずり降ろせば良い。
「ゴメン、宗」
「………杏里?」
「……気づけなかった。」
本心を伝える。アタシにできるのは、それだけ。
一方的な独白だ。
「こんなに、宗は苦しんでたのに…………アタシは何言われようが構わない。見ての通りこんなアタシだ、言われ慣れてるよ。
罵倒されてる方が幾分か気分良いよ………正直、今の宗を見てるのは辛い…
立ち直れとか、大丈夫だとか言わないよ。アタシは宗の全部を理解したわけじゃない。
でも…………アタシは…」
天祥院と、宗が。
同じ舞台に立った、
一年前のライブが。
「最高だったと思うよ。」